Research Abstract |
口腔扁平上皮癌(SCC)の遠隔転移の予測診断法を確立するために,1990年10月より1996年12月までの間に東北大学歯学部第二口腔外科にて治療を行ったSCC107例を対象に,遠隔転移の有無とそれと関連する様々な因子について検討した.対象症例の原発部位は舌50例,下顎歯肉27例,上顎歯肉11例,頬粘膜11例,口底8例であり,T分類(UICC,1987)は,T1;22例,T2;51例,T3:16例,T4;18例であった.対象症例107例のうち,所属リンパ節転移は39例に認め,これらのうち6例に遠隔転移を認め,いずれもpN2bあるいはpN2cであった.なお,pNOで遠隔転移を認めた症例は認められなかった.遠隔転移を認めた6例中5例のシスプラチンを主体とした術前化学療法の,大星・下里の分類による病理組織学的効果判定はいずれもIあるいはIIaで,奏効した症例は認められなかった.治療前の腫瘍組織の分化度,浸潤様式,および腫瘍細胞におけるCD44,E-カドヘリン(E-cad),ヘパラン硫酸グリコサミノグリカン,L-PHA結合糖鎖の発現をパラメーターとした悪性度指標により,リンパ節転移の予測はかなりの精度で可能であったが,遠隔転移の予測には不十分であった.しかし,腫瘍細胞におけるE-cadとα-カテニン(α-cat)の発現は,いずれの遠隔転移症例においても減弱しており,これらのマーカーをパラメーターとした悪性度指標が有効であると思われた.以上より,これまでの研究結果では,遠隔転移を示すSCCにおいては,E-cadとα-catの発現が減弱しており,複数個あるいは健側の所属リンパ節に転移を示し,かつシスプラチンを主体とした癌化学療法に抵抗性であることが示唆された.今後,SCCの治療過程における生物学的性状の変化についてより詳細な検討を行い,遠隔転移の予測診断に有用な因子を同定していく予定である.
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