1998 Fiscal Year Annual Research Report
NMR法による触媒抗体の構造特性の解析と触媒能の改変
Project/Area Number |
10672018
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 栄夫 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 助手 (60265717)
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Keywords | 触媒抗体 / NMR / 遷移状態アナログ / 水素結合 / ヒスチジン / 互変異性 |
Research Abstract |
エステル加水分解活性の異なる2種類の触媒抗体6D9,および9C10を研究対象とし,それらの安定同位体標識Fabを調製しNMR解析を行った.両抗体は反応速度解析の結果から,基質と遷移状態アナログ(TSA)に対する親和力の差が触媒活性を生み出す機構であることがわかっている.部位特異変異実験からは、6D9の触媒活性発現にはHis27d(L)が主要な役割を果たしていることが知られている.そこで本年度はこのHis27d(L)に着目した解析を行った. 主鎖アミド窒素を^<15>N標識したFabを大量調製し,^1H-^<15>Nシフト相関スペクトルを測定した.NMRシグナルの帰属は^<13>C標識アミノ酸による二重標識法により行った.得られた帰属をもとに、基質,TSA添加に伴う化学シフト変化を解析したところ,6D9、9C10両抗体ともV_H,V_Lの界面を中心とした領域で,リガンド(基質・TSA)を認識していることが明らかとなった.次にヒスチジン残基の基質,およびTSA結合に伴うpKa値の変化をpH滴定実験から明らかにした.その結果、6D9のHis27d(L)は,TSA存在下でのみ低pH側に大きくpKa値がシフトする(pKa<4.3)ことが判明した.これは,His27d(L)がTSA結合時に何らかの相互作用を形成したことを示唆する.さらに,ヒスチジン側鎖イミダゾール水素のNMRシグナルを解析したところ,His27d(L)とTSAのリン酸エステルの酸素原子との間に水素結合が形成されていることが明らかとなった.6D9と基質との結合,および9C10における基質・TSA結合の際は,水素結合の形成は観測されなかった.したがって,6D9では,基質とTSAのエステル部分の化学構造の識別にHis27d(L)が,水素結合を通して主要な役割を果たしていると考えた.6D9-TSA複合体におけるHis27d(L)の水素結合様式をさらに詳細に調べるために,NMRによるヒスチジン側鎖のプロトン解離状態,および互変異性体の新規決定法を開発した.その結果,His27d(L)はdeprotonation型でN3互変体の状態でTSAのリン酸基の酸素原子と水素結合していることが明らかとなった.このような詳細な水素結合様式の決定は触媒活性発現機構の理解に必須なものであり,合理的な活性向上を目指すために重要な情報になると考えられる.
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