Research Abstract |
1. 主体性なる概念 主体性なる概念は,「主体性論争」(唯物史観と主体性,世界,2月号,昭和23年,等)で代表されるように哲学,文学,歴史学,これら領域間において活発に論議されてはいるけれども,明快な概念規定はされないまま開いた状態で今日に至っている。主体性を論ずる者の思想・論旨を考察すると,人間の能動性,規格化されぬ自主と独立,自己の価値観に根ざす主張と抵抗が主体性の構成要素となっている。 他方,学校教育の場において主体性なる用語は,類似する概念である自主性,自発性,自律性,意欲と共に学校教育目標としてかなり用いられている。自主性なる概念は,認知的判断に比重が置かれて用いられる傾向にある。校長経験者,校長,指導主事,教師とのinterviewから,彼らは,主体性なる概念を,子供が自己の考えを堅持しながらも主観にとらわれることなく,友達の考えも受け入れることができる寛容さ・共感性を備えた人間となることを期待して,用いていることが見いだされた。 2. 算数・数学学習における子供の主体性を評価する枠組みの構成 主体性に関する算数・数学の授業,算数・数学教師とのinterview,及び算数・数学全国大会の研究発表内容に表出する主体性なる用語の頻度等の分析から得た情報を基にして,算数・数学学習の問題解決場面における自主性,協力・共感性,問題解決性・数学的な考え方,自己の価値観が反映するコミュニケーションを中核とする主体性評価の枠組みを作成・設定した。この枠組みの妥当性を検討するために大学生を被験者として授業を試みた。与える教材にもよるけれども,大筋,次のような結論が見いだされた。 自主性,協力・共感性の尺度はかなり妥当性があるといえる。しかし,彼らの多くが算数・数学の真偽を論理性に置くという方向の数学観が強く,コミュニケーションの過程に自己の価値観に根ざす考え,あるいは感情・情緒的な表現をする者がほとんど見られなかった。来年度実施する小学高学年生・中学生を被験者とする実験授業では,彼らに提示する教材と同時にコミュニケーション尺度の再検討が必要である。
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