Research Abstract |
1.目的:聴性脳幹反応(ABR)の普及など診断学上の進歩により,重複障害児においても難聴の早期診断が可能になった。しかし,正確な聴力検査が難しく,補聴器適合に必要な情報が得られにくいなど補聴器装用指導に困難を伴うことが多く,補聴器の適用方法が確立しているとはいえない。また,言語・コミュニケーションの発達など補聴器装用効果についても明らかになっていない。本研究では,過去15年間に補聴器装用指導を行った重複障害児の聴覚閾値,聴性行動,言語発達を評価し,補聴器装用効果について検討する。2.対象および方法:ABRで両側45dB以上の閾値上昇を認めた発達障害児89例のうち,補聴器装用指導を行い,6ヵ月以上経過観察を行った54例における補聴効果を聴性行動発達チェックリストにより評価した。3.結果:(1)89例の難聴の程度は,正常範囲6例(6.7%),軽度8例(9.0%),中等度18例(20.2%),高度25例(28.1%),重度32例(36.0%)であった。(2)6ヵ月以上経過観察を行った54例のうち,補聴器装用後,聴性行動に変化の認められた症例は35例(64.8%,うち4例はその後非装用),効果が認められなかったものが9例(16.7%),補聴器の装用が困難であったものが10例(18.5%)であった。(3)補聴効果の認められた35例が日常生活で主に用いたコミュニケーション・モードは,音声言語の表出;21例(60.0%),音声言語の理解;2例(5.7%),身振りサイン;8例(22.9%),発声・表情;4例(11.4%)であった。4.考察:重複障害児においては,補聴効果に関連する複数の要因が複雑に影響しあうため,個々の症例の基礎疾患や合併症の種類と程度(難聴,知的障害,運動機能障害,行動特性など)を考慮して対応の遅れを防ぐこと,発達段階や難聴の程度など個々の症例の特徴に応じたコミュニケーション・モードを使用し,言語指導の方法を工夫することが重要と考えられた。
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