Research Abstract |
1.目的:難聴を伴う重複障害児の言語指導は,補聴器を装用して聴覚的な情報の受容を補償した上で,音声言語に限らず,身振りサイン,シンボルなど様々な手段を用いたコミュニケーションの発達を促すことが重要である。しかし,個々の症例に適切なコミュニケーション・モードの選択や,指導方法が確立しているとはいえない。本研究では,補聴器装用が遅れ,高度難聴および知的障害を合併する重複障害児1例を対象として,語彙の獲得過程と相互的コミュニケーションの発達におよぼす身振りサインの効果について検討する。2.症例:8歳の女児。初診時年齢は6歳8カ月,診断は難聴,精神遅滞,喉頭軟化症であった。聴力検査および補聴器装用:CORによる聴覚閾値は70〜80dB,ABR閾値は左右耳とも80dBであった。6歳5カ月時より補聴器両耳装用を開始した。3.指導経過:指導開始時(6歳8カ月)のS-S法言語発達遅滞検査により,言語記号の受信(理解)・発信(表出)とも単語レベルで可能であり,1歳7カ月レベルであった。基礎的プロセス(動作性課題)は2歳11カ月レベルであった。言語指導の方法は身振りを媒介として音声言語の受信・発信可能な語彙の拡大,実際のコミュニケーション場面における習得語彙の使用とやりとりの促進,学校との連携による日常生活における般化とした。現在(8歳)の言語およびコミュニケーションの発達は,言語記号の受信は音声言語のみで理解できる語が増加し,2歳10カ月レベルになった。身振りを伴えば2〜3語連鎖の理解が可能になった。発信は事物名称,動作語,大小,色名など語彙が拡大した結果,3歳2カ月レベルとなり,習得語彙を学校でも用いることがみられた。また,指導開始時にはコミュニケーション行動が一方的になる傾向がみられていたが,挨拶,報告など伝達機能が多様になり,状況判断や他者を思いやる気持ちの芽生えがみられた。4.まとめ:本症例においては,身近で写像性の高い身振りサインを媒介として音声言語を習得することが有効であった。また,長期間にわたる言語指導,教育的配慮が必要なため,医療機関,教育機関の連携が重要と考えられた。
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