Research Abstract |
5-アミノレブリン酸合成酵素(ALAS)はヘム生合成経路の最初の反応を触媒するミトコンドリア(Mt)酵素で,非特異型(ALAS-N)と赤血球型(ALAS-E)の2種のイソ酵素が存在する.ALAS-NのMt移行については,ヘムによるフィードバック調節が知られており,これにはCys-Proを含む配列(ヘム調節モチーフ,HRM)が関与している.また,このヘム調節には,N末端側の3つのHRM(N末側よりHRM1,HRM2,HRM3とする)のうち,特にHRM1とHRM3の存在が重要である.一方,ALAS-E発現培養細胞でのヘム添加実験では,ALAS-EにもHRMが存在するにもかかわらず,明白なMt移行阻害が見られない.このように両イソ酵素におけるMt移行についてのヘムによる調節のされ方は異なっており,この違いの分子レベルでの理解を深めるため,以下の検討を行った. ALAS-EとALAS-Nの一次構造の差は主としてN末側のHRMを含む領域にあり,前者ではHRM2とHRM3(従ってHRM1とHRM3)の間隔が前者より約40アミノ酸残基短い.そこで,このような領域を改変したラットALAS変異体を各種,また,N末プレ配列がALASE,C末成熟酵素部分がALASNからな留融合タンパク質を作成し,QT6細胞を用いた一過性発現系でヘムの影響を解析した.その結果,ALAS-NのHRM2とHRM3の間のアミノ酸配列の一部39残基を欠失させた変異体では,ALAS-Nで認められたヘム添加によるMt移行阻害が消失した.しかし,ALAS-Nの上記39残基をALAS-Eの対応する部位(HRM2とHRM3の間)に挿入しても,ALAS-Nにおけるようなヘム添加の影響は観察されなかった.一方,スクシニルアセトン(SA)添加によりヘム合成を阻害した細胞では,ALAS-N,ALAS-E上記の変異体のいずれについてもMt移行の増加が見られた.また,SA存在下においても,ALAS-Eには明白なヘム添加効果は見られなかった.また融合タンパク質ではヘム添加効果が観察された. [結論]HRMのヘムに対する感受性は,各イソ酵素の生理的役割を反映して,ALAS-Nの方が著しく高い.ヘム調節には,二つのHRMの存在とともに,HRMを含むN末領域の高次構造も重要であることが示唆された.
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