Research Abstract |
本研究の目的は,生体分子など巨大な系の分子動力学シミュレーションを,高速かつ高精度で行うためのシステムを構築することである. この目的は基本的には分子動力学専用計算機“MD-Engine"と,高速アルゴリズムの一種である高速多重極法を併用することにより達成する.高速多重極法は近似的な手法であり,速度を優先し近似の度合を増せば,当然,計算精度が低下する.MD-Engineを併用することにより,この精度の劣化を防止すると同時に,さらなる高速化が期待できる.本研究では,数値実験により,両者の併用が極めて有効であることを示した.この結果は,日本生物物理学会第36回年会(九州大学,1998年10月),並びに,第12回分子シミュレーション討論会(物質工学工業技術研究所,1998年12月)において発表した.なお,現MD-Engineは,このような併用を行う際に,データ通信において非効率的な面がある.この点を改善した新MD-Engineが,現在,開発段階にある. さらに本研究では,高速多重極法を並列化することにより,さらなる高速化を図った.具体的には,高速多重極法の,バルク同期並列モデルに基づく並列アルゴリズムを開発し,それをいわゆるPCクラスタ(パソコンのネットワークからなる並列計算環境)上に実現した.同時に メッセージ通信に基づくアルゴリズムの実装も行った.数値実験の結果,超線形スピードアップが観測された(8台のパソコンにより約11倍の高速化).また,ふたつのプログラムは,概して,同程度に高速であった.バルク同期並列モデルに基づく実装では,各種のプラットフォームにおける計算時間が予測できる点において,メッセージ通信に基づくものよりも優れていると思われる.以上の結果については.現在,発表の準備中である.
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