Research Abstract |
物体の三次元構造を認識するためには,物体の表面形状の情報が重要であることが指摘されている.近年,我々のグループは,サルの頭頂連合野の頭頂間溝尾側部領域(CIP)において面の傾きに選択的に応答するニューロンを見つけた.これらのSOSニューロンは主に両眼視差手がかりをもとに面の傾きをコードしていたが,一部のニューロンは,両眼視差と単眼性の手がかりの統合によって面の傾きをコードしていることもわかってきた.本研究は,SOSニューロンが単眼性の手がかりの一つであるきめの勾配によって面の傾きをコードしているかどうかを調べることを目的として行った.きめの勾配に対するニューロンの応答を調べるために,様々な方向に傾いているテクスチャー平面の刺激を作成した.刺激の直径は35度とした.表面の傾きは,前額面に平行な平面に加えて,水平軸の周りに奥あるいは手前に45度傾いた平面,垂直軸の周りに右あるいは左が手前になるように45度傾いた平面,さらに,それらの間の斜めの方位4方向の合計9種類の方位を用意した.さらに,ニューロンがきめの勾配のほかのどのような傾きの手がかりに応じるかを調べるため,次のような刺激群を呈示してニューロンの応答を調べた.1)テクスチャー平面:きめの勾配,2)テクスチャー平面のステレオグラム;きめの勾配+両眼視差,3)ランダムドットステレオグラム:両眼視差勾配,4)輪郭内部を塗りつぶされたステレオグラム:輪郭の透視画法的見え+両眼視差. CIP領域から主観的輪郭線に透視画法的手がかりを含まないランダムドットステレオグラム(RDS)の平面の傾きに選択的に応答するニューロンが記録された.このタイプのニューロンは,面の表面に沿った視差勾配をもとに面の傾きをコードしていると考えられる.また,輪郭線に透視画法的手がかりが含まれておらず,輪郭の内部が一様に塗りつぶされたステレオグラムの平面の傾きに選択的に応答するニューロンは,輪郭の視差(方位視差や回転視差)をもとに面の傾きをコードしていると考えられる.さらに,きめの勾配によってあらわされた面の傾きに選択的に応答するニューロンも見つかった.このタイプのニューロンの中には,同じ刺激に視差をつけても反応は変化せず,また,ランダムドットステレオグラムにに対しては反応を示しさないタイプのものと,同じ刺激に視差をつけると応答が増強し,RDSに対しても同様の選択的な応答を示しすタイプのものが見つかった. したがって,サルの頭頂間溝尾側部領域(CIP)の面の傾きに選択的に応答するニューロン(SOSニューロン)の中できめの勾配に選択的に応答するSOSニューロンには,きめの勾配から面の傾きを検出しているものと,きめの勾配および視差勾配の手がかりを統合することによって面の傾きを検出しているものがある可能性を示唆している. さらに,ヒトでのfMR1の研究によって,やはり重要な単眼性奥行き手がかりである陰影による凹凸の識別が頭頂葉で行われていることを示唆する結果を得た.
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