1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10710016
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 大輔 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助手 (00282541)
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Keywords | 高山寺 / 明恵上人樹上坐禅像 / 宋風画 |
Research Abstract |
本年度は、主に基礎的な文献資料の収集とその整理に努めた。特に東京大学出版会より刊行されている『高山寺史料叢書』所載の文献資料を中心に、宋風受容という観点から高山寺関連の美術史科の抽出を行った。その際特に注意したのは、単純に物質的な美術作品のみに着目するのではなく、こうした美術品の制作や受容の背景を形作る宗教儀礼や思想内容などの面における宋風受容の問題にまで広く注目した上で史料を収集することであり、高山寺における宋風受容の全体像を構築した上で、改めて個別の美術作品の宋風受容の意味を問う基礎を作ることに努めた。 その結果、本年度においては、美術作品そのものよりもまず高山寺の活動のあらゆる側面を規定していた明恵上人という人物の思想面における宋風受容の意義について見解をまとめることが出来た。もちろんその際も、美術品との関連を考慮し、明恵自身の姿の視覚的表象である「明恵上人樹上坐禅像」という肖像画に何故宋風の画風が用いられたのかという問題を設定して考察した。結論としては、「明恵上人樹上坐禅像」という作品に宋風の画風が用いられたのは、宋風という異国をイメージさせる画風が、日本とは異なる中国やインドといった土地のイメージを見る者に喚起させ、それにより明恵がインドから中国を経て伝来した仏教の正統を継承していることを示す効果が期待されたためであるという見解を導いた。こうした判断を行う基礎として、『明恵上人行状』(仮名行状、及び漢文行状)、『如恵上人神現伝記』、『高山寺縁起』、『大唐天竺里程書』、『随意別願文』等の史料を用い、また、日本仏教史の研究書や中国絵画関連の図録等も随時援用した。
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