1998 Fiscal Year Annual Research Report
周辺的生業からみた自然観、労働観に関する環境民俗学的研究
Project/Area Number |
10710143
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
管 豊 北海道大学, 文学部, 助教授 (90235846)
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Keywords | 周辺的生業 / 遊び / 生業複合 / 身体性 / 持続可能性 / 環境 / 技能 / 技術 |
Research Abstract |
平成10年度において、本研究では、集団にとって重要とされている中心的生計活動の蔭で、脈々と受け継がれてきた周辺的生業(minor subsistence)に関して、フィールド・ワークを主体とした基礎的な聞き取り調査、参与観察、映像記録などを行った。具体的には、1、富山県射水郡小杉町におけるガンカモ類を中心とした平地性鳥獣猟、2、新潟県古志郡山古志村における錦鯉養殖を中心とした水田養鯉、3、沖縄県具志川市における闘牛と伝承的家畜飼育を調査対象とした。これらの調査対象は、それを形成した環境、生業形態に占める位置、歴史的変遷過程などにおいて異なるが、共通して本研究の中心的対象である伝承的な周辺的生業と位置づけることができる。しかし、本研究の基礎調査の結果、その周辺的生業は、従来、生態人類学や民俗学において、生業研究の基本的な視点であった、多資源適応、あるいは危機回避の戦略、商品経済への拡大などという生態的、経済的な要因からは理解できないような様相をもつことが明らかになった。そこには、経済的なメリットが失われても、その生業を継続する大きな動機が存在していたのである。 本研究では、現実に今でも存在している、人間と環境との多様な伝承的関係性の実態をつぶさに観察することによって、一見取るに足らない伝承的な生業の内部に楽しみを見出す担い手たちの意識が存在することを確認した。その周辺的生業は、伝承性に価値があるのではなく、機械化に逆行して低い技術水準を保つことにより、高技能という身体性を維持し、自然に対し細やかで深いつきあいを維持する楽しみの世界を創出できる点で価値があるといえる。つまり、ここに“遊び"の局面から労働をとらえる視点が浮上する。さらに、このような周辺的生業から、必然的に環境に対する負荷を軽減させる生業のあり方が示唆され、持続可能な環境利用の方策に関する知見を深めることができた。
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