1998 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における「帝国意識」の形成過程と植民地台湾への認識構造をめぐる研究
Project/Area Number |
10710156
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松田 京子 大阪大学, 文学部, 助手 (20283707)
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Keywords | 帝国意識 / 植民地・台湾 / 台湾先住民 / 伊能嘉矩 / 人類学 / 坪井正五郎 / 台湾史 / 生存競争史観 |
Research Abstract |
世紀転換期における日本「内地」での帝国意識の形成過程を、日本帝国初の本格的な植民地・台湾に対する認識枠組の形成との関連で解明することが、本研究の大きな研究課題であるが、本年度は、特に後者の課題に重点をおき、領台初期における植民地官僚の台湾認識のあり方を考察した。具体的には、領台初期の台湾先住民調査を精力的に展開し、初期の台湾先住民像の形成に大きな影響を及ぼした植民地官僚・伊能嘉矩に焦点をあてた。 そこでまず、伊能嘉矩が渡台以前に身につけていた、人類学的知の枠組を探るために、伊能の師であった人類学者・坪井正五郎の思想を「人種」という概念を中心に考察し、論文「世紀転換期における「人種」を語る知」として発表した。 次に、伊能嘉矩が一方で、人類学的知に基づいた台湾先住民調査の実施・その調査成果の公表と同時並行的に、他方で「台湾史」関連の著作を数多く残し、その台湾史記述が現在の「台湾史」研究にも影響を及ぼしている点を重視し、伊能の「台湾史」記述と植民地主義の関連を考察した。考察の中間報告として、平成10年度日本思想史学会および京都大学人文科学研究所の研究会などで報告を行い、また台湾にわたり台湾の研究者との意見交換を行うなど研究の深化につとめた。その成果として、伊能嘉矩の「台湾史」記述が(1)生存競争史観とでもいうべき史観に彩られている点、(2)その史観は彼が行った人類学的調査の過程において形成された点、(3)そこから伊能は「中華文明」批判を行い、日本は台湾統治において、細部にわたるまでの「文明化」を進める「文明化の使命」をおびていることを主張し、それが同時代の西欧帝国主義諸国の「帝国意識」と共通性をもつ点などを、明らかにした。
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