1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10710179
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Research Institution | Gifu Shotoku Gakuen University |
Principal Investigator |
塚本 栄美子 岐阜聖徳学園大学, 教育学部, 講師 (90283704)
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Keywords | 近世ドイツ / 臣民 / 信仰統一化 |
Research Abstract |
都市部の臣民に関して、これまでに報告者は、一枚絵を為政者と市民との接点として分析し、臣民の持つ価値観は必ずしも抑圧されたものではなく、為政者が考慮し社会のありように反映させなければならないものであった、との結論を得ていた。さらに本研究においては、神学的な教義に対してではなく慣習としての宗教儀式の変更に対して激しく反抗する市民と、こうした動きに対応せざるを得す市民の主体性と価値観に対して一定の譲歩を示した為政者の措置を分析することで、同様の構図を見いだすことができた。 次に、農村部の臣民については、商品としての一枚絵の広がりと臣民自身の手による史料の残存が期待できないことから、臣民と為政者との媒介と考えられる教区聖職者の教区内での人的繋がりを検討した。これについては地域差が激しく一つの結論を導き出すのは困難であるが、概して宗教改革後1世代の段階では旧来の共同体及び為政者たちとの繋がりを確認することは困難であった。しかし、2世代以降徐々に牧師の家系が登場してくることから、彼らが共同体の中で安定した地位を確保していったことが容易に推定できる。 彼らは招聘の経緯から、必ずしも領邦君主との関係はなく、1590年代をピークに宗教改革以降も説教壇・洗礼盤・聖杯の寄進、教会建設を行っていた地方貴族の意向をくんで活動していたと考えられる。しかしながら、地方貴族は、従来考えられていたよりも、アウグスブルクの和議の決定に反して自らの宗派選択に主体性を示しているケースが多く、地方貴族と聖職者との関係がすぐに領邦君主の領邦化に反映されたとは考えにくい。したがって、領邦君主ー地方貴族ー教区聖職者三者の関係を今一度整理した上で、それぞれと臣民との関係を考察することが今後の課題となる。そうすることによって、領邦国家の中の農村、そして臣民の位置、社会のありようが明らかになると考える。
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