1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10710200
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
肥爪 周二 茨城大学, 人文学部(人文学科), 助教授 (70255032)
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Keywords | 文雄 / 行智 / 盛典 / 悉曇学 / 連声 / 唐音 |
Research Abstract |
1 文雄『悉曇字記訓蒙』の悉曇学史上における意義を明らかにした。 伝統的な日本悉曇学において、梵語の音訳漢字は呉音・漢音と呼ばれる日本漢字音によって読まれてきたが、江戸時代の古文辞学派を中心とした人々は、転訛した日本漢字音ではなく、当代の中国語音たる「唐音」によって音訳漢字を読むことを主張した。しかし、それらの主張は、梵語の音韻の体系性についての考慮を欠いたものであった。これに対して文雄は、唐音を利用しつつも、梵語の音韻体系としての均衡を重視して『悉曇字記』の音訳漢字の発音の復元を試み、日本悉曇学史上に新たな地平を切り開いた。しかし、文雄には漢字音(中国音)の歴史的変遷についての配慮が乏しく、後世の行智のように、古代中国語音を復元した上で梵語音を考察するという手続きをとるには至らなかった。 2 行智『梵漢対訳字類編』の音訳漢字の典拠を探求した。 草稿本である『梵文漢対字類』『梵文対註字類集』を精査することにより、この著作の成立過程を明らかにし、行智が『大日経』『金剛頂略出経』をはじめとする五〇点以上の文献を参照して、行智が音訳漢字の収集に努めたことが明らかになった。 3 盛典『倭語連声集』における「連声」という概念の内実を明らかにした。 伝統的な日本悉曇学における連声学説を詳細に分析することにより、この分析装置が梵語のサンディとは基本的に無関係なものであること、関心の焦点が空点・涅槃点に相当する音の「発生」にあるため、日本語の分析に応用した場合、必然的に、いわゆる連声現象・連濁現象が取り上げらないことを解明した。
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