1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10710228
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
金山 亮太 新潟大学, 人文学部, 助教授 (70224590)
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Keywords | イギリス演劇 / 大衆演劇 / メロドラマ |
Research Abstract |
これまで我が国では本格的な研究がほとんど行われてこなかった19世紀イギリス大衆演劇の一次資料を収集することから本年度の研究は始まったが、予算内でほぼ所定の目的を達することができた。次にそれを実際に読み込む作業に着手したが、その途中に二つの学会発表を行う機会を得た。5月に「演技するディケンズ」と題する論文を京都大学で開催された日本英文学会第70回大会で口頭発表したが、これは、ヴィクトリア朝を代表する小説家であるチャールズ・ディケンズが、生涯を通して素人芝居や公開朗読などといったパフォーマンスに興味を抱き続けていた事実に着目し、当時の大衆演劇状況へも言及したものであった。6月にもディケンズの小説に関する口頭発表をディケンズ・フェロウシップ日本支部春季大会で行ったが、この中でもディック氏という狂人と作者との類似点を探りつつ、その幼少時の自己劇化癖を指摘した。以上の二つは既に活字論文として刊行済みである。この二つの研究発表とそれに対する出席者の質問などから、この分野に対する日本人英文学者からの関心は徐々に高まりつつあるものの、まだ作品が広く知られているわけではない事実を確認した。その後も引き続き入手した文献を読むという作業を継続して今日に至っている。目下抱えている問題点は二つある。一つは、このような大衆演劇を見ていた観客層について。内輪で行っていたような素人芝居の中から本格的役者志望の人物が登場することがあったように、観客の中にも潜在的役者志望者がいたはずであるが、この二種類の人々はどのような方面に吸収されていったのか。もう一つは、役者と脚本家の立場の逆転がこの時期に起こっているが、それは何を契機としたものなのか。この時期には役者の価値が相対的に低下し、逆に脚本家が脚光を浴びるという現象が起こる。この問題と産業革命爛熟期の識字率の上昇との関係についても考察してみたい。
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