1999 Fiscal Year Annual Research Report
英語圏旧植民地の文学に表現された植民地支配の影響および植民地批判の研究
Project/Area Number |
10710236
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
中村 和恵 成城大学, 文芸学部, 専任講師 (00268476)
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Keywords | ポストコロニアリズム / マルチカルチュラリズム / 南太平洋 / ポストコロニアル文学 / マイノリティ / 先住民 |
Research Abstract |
本年度の研究実績は以下の相互に関連した4項目に分類できる。 1.複雑化する現代社会の中でますます定義しにくくなる「マイノリティ」の文化的問題について、新しい英語文学の分析を通して論じたもの。具体的には、ニュージーランドのマオリなど、先住民文化と現代性が複合的な文化を生んでいる状況、カリブ海などかつての植民地の文化がいまだに引きずっている大英帝国の影響、同時にそこから逆説的に誕生してきたエスニシティ、言語、地域をまたいで連続し混成していくいわば「グローカル」な文化、さらに忘れられがちな英国自体の複数文化性について論じたもの(国民文学の終焉、越境する知)。 2.英語圏文学の中でもっとも新しい南太平洋地域の文学についての報告および概説。当補助金によりフィジーのUniversity of the South PacificおよびUniversity of Aucklandへ渡航、現地の文学者たちと討議し研究事情を知る機会を得た(太平洋世界研究講座、海のアジア、帝国を飼いならせ[USPの文学者たち])。 3.昨年より続く課題である古典作品の植民地側からの「読み返し」については、バーラティ・ムカジーのホーソン『緋文字』の書きかえ論が今年の成果だが、このほかに博士論文となるべき研究を進め、整理することができたのが当該研究者にとっては大きな成果であった。この助成の恩恵は、継続研究で公にしていきたい。 4.上記のようなポストコロニアリズムやクロスカルチュラリズムに関する議論のなかで、必然的に生じてくる文学の創作・研究と倫理という問題についても論じた(「悪い」ポストコロニアル文学、Les Indesと「愛」について)。とくに日本人研究者が植民地主義と文学にかんする問題を論じるときの立場を問うもの(越境する知、The Colonized Colonizer)は、重要な問題に小さいながら一石を投じることができたと自負している。
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Research Products
(12 results)
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[Publications] 中村和恵: "Les Indesと「愛」について"ユリイカ(1999年7月号). 31巻8号. 162-167 (1999)
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[Publications] 中村和恵: "遍在する観念としての故郷:ラージャ・ラオ『蛇と網』と横光利一『旅愁』"早稲田大学(1999年11月号). 24巻6号. 64-69 (1999)
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[Publications] 中村和恵: "帝国を飼いならせ-英語圏のポストコロニアル作家たち スブラマニ"早稲田大学(1999年5月号). 24巻3号. 94-97 (1999)
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[Publications] 中村和恵: "帝国を飼いならせ-英語圏のポストコロニアル作家たち バーラティ・ムカジー"早稲田大学(1999年7月号). 24巻4号. 96-99 (1999)
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[Publications] 中村和恵: "帝国を飼いならせ-英語圏のポストコロニアル作家たち USPの文学者たち"早稲田大学(2000年1月号). 25巻1号. 104-107 (2000)
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[Publications] 中村和恵: "「悪い」ポストコロニアル小説"新潮. 96巻2号. 216-217 (1999)
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[Publications] NAKAMURA Kazue: "The Colonized Colonizer[原稿提出時題、変更の可能性あり]"Crossing Cultural Borders:Toward an Ethics of International Communication Beyond Reciprocal Anthropology:The Proceedings of the Fourteenth International Symposium of International Research Center for Japanese Studies.. (未定). (2000)
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[Publications] 中村和恵: "国民文学の終焉"大航海. 32号. 40-49 (2000)
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[Publications] ジーン・リース: "サルカリッソーの広い海「クレオールの中間航路『サルカリッソーの広い海』の余白に」"みすず書房. 277(261-277) (1998)
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[Publications] 小森陽一、吉見俊哉 他: "越境する知(仮題)「気違いから女王への手紙-受難としての越境とポストコロニアル文学」(1巻(全6巻中))"東京大学出版会(栗原彬、佐藤学、小森陽一、吉見俊哉編)(予定). (2000)
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[Publications] 春日直樹 他: "太平洋世界研究講座(仮題) ポストコロニアルな太平洋世界(3巻(全5巻中))"国際書院(予定). (2000)
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[Publications] 濱下武志 他: "海のアジア(シリーズ)・海のパラダイム(1巻(全6巻中))"岩波書店(尾本恵市、濱下武志、村井吉敬、家島彦一編)(予定). (2000)