1998 Fiscal Year Annual Research Report
古典悲劇とキリスト教-対立の歴史と和解の試みに関する諸問題
Project/Area Number |
10710240
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
柳 光子 愛媛大学, 法文学部, 講師 (60284387)
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Keywords | 17世紀フランス文学 / 古典主義 / フランス演劇 / 古典悲劇 / キリスト教 / ラシーヌ / ポール・ロワヤル |
Research Abstract |
キリスト教による演劇断罪の歴史を多面的に把握するため,関連図書とりわけ17世紀に刊行された演劇論,宗教家の説話集,文学サロンの語録などの資料を収集・分析することが本年度の研究の主幹であったが,幾つかの非常に示唆的な資料を参照することができた。特に,ジャンセニストによる当時の主要な文学作品に対する批評を収録した資料を入手できたことは幸いであった。7巻からなる大作であり,分析にはさらに時間を要するが,当時の一宗教勢力の文学観を知る上で大いに参考となるものと思われる。これについては今後,親ポール・ロワヤル派の集ったサロンの語録に見られる,古代作家や同時代の作家に関する批評等とあわせて,丹念に読み解く作業を予定している。 この他,演劇擁護派からアベ・ドービニャック演劇断罪派からピエール・ニコル,それぞれの演劇論を読み,彼らの理論が古代作家を多く援用しているものの,同時代の作家の演劇を主要な素材としていることをあらためて確認した。とりわけドービニャックは,古代の演劇と同時代の演劇とを様々な観点から比較・検討しており,当時の演劇の発展を阻止していると判断した諸要素に対する解決策までも模索していた。これらの演劇論の影響が古典劇の作家たちのうちに見いだされる可能性を念頭において,諸作品を読みなおす必要があるものと思われる。ラシーヌについては一部その作業を終えているが,後世の評価が相対的に低い作家たちにも目を向けて,同様の分析をさらに試みたい。
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