1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10710265
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
秋山 学 筑波大学, 文芸・言語学系, 講師 (80231843)
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Keywords | 神話伝承文化 / 冥界譚 / 神秘 / 神殿構造 / 天上的体験 / 至福者の島 / 聖化 / 古代地中海世界 |
Research Abstract |
ギリシア・ラテン世界における古典古代の文化は、「神話伝承文化」と総称されうるであろう。この伝承が、特に叙事詩文学において生み出した表象形態の一つに「冥界譚」がある(Odysseia XI;Aeneis VI)。この「冥界譚」は、叙事詩が語られゆく中で話者の体験の時間的側面を捨象する働きを持っている。これは、キリスト教期における「神秘」ないしキリスト教的秘跡が担う天上的体験を、古典古代期では「神話」特に「冥界譚」が前表論的に担っていたことを表すとともに、「キリストの冥界下り」を教義的に要請する背景となる。一方ユダイズムの伝承では、神殿構造の意味づけのうちにYahweの現存する空間のあり方が表現されるが、キリスト教期にはこれが人間の神殿性および人間に内在する神性の強調となって現れ、「神秘」は人間の全的聖化作用の根源となる。それによって人間の身体性が、古典期における否定的な評価から転じて肯定的な意味を獲得するに至る。またアナロジカルな意味で、既存の伝承文化すなわち古典古代期の神話伝承もまた、旧約的な位置づけにおいて肯定的な意味を与えられることになる。ここにおいて、神性の内在を果たす「神殿」ないし「人間」は時間的・空間的原点として作用し始め、同じく神人の到来を要請する空間であった「冥界」も、一転して「至福者の島」と化す(これも古典文学に既存するテーマである)。聖化の作用は、身体的・空間的地平からさらに言語的・文献学的次元へと働きを広げるため、叙事詩文学から発した古典語・古典文学の潮流は、「冥界譚」を端緒として、総じて「神秘」を容れるに相応しい器と化す。古代末期において、ギリシア・ラテン教父たちが古典語を用い「神秘」を語る中で行った営為は、まさしくその実証であった。ユダイズム〜古典古代期〜新約〜教父時代を総括的に含む「古代地中海世界」は、このような人間の全的体験をほぼ完全な形で提示するサンプルだと言える。
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Research Products
(4 results)
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[Publications] 秋山 学: "バシレイオスと「ルネッサンス」-神学と人文主義の関係をめぐって-" 地中海学研究. XX(未定). (1999)
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[Publications] 秋山 学: "Vergilius,Aeneis VI.601-622-冥界譚とテキスト批判-" エポス. 18(未定). (1999)
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[Publications] 秋山 学: "第3巻『書物の言語態』所収「古代・中世地中海世界における書物と書物観」(予定)" 東京大学出版会,シリーズ「言語科学と言語態」第1期『言語態 ことばの生存領域研究』, (1999)
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[Publications] 秋山 学〔学位論文〕: "神話・神秘・解釈-予型論的古典解釈と神秘的変容の諸相-" 東京大学大学院総合文化研究科に98.10月提出済;審査中, 261