1998 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期ドイツ王国の大学--法史・国制史の視点から
Project/Area Number |
10720002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
田口 正樹 北海道大学, 法学部, 助教授 (20206931)
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Keywords | 中世後期 / ドイツ / 大学 / 大学史 / プラハ / 教会 / シスマ / 社会史 |
Research Abstract |
本年度は、初年度であるため、基本的な資料の収集と、ドイツの学界における近年の大学史研究成果の参照に重点がおかれた。戦後ドイツの中世大学史研究では、一時、知識人の学問的関心を大学成立の動因とみなし、大学を知識人の自由な学問共同体ととらえる見方が打ち出されたが、近年の多くの研究はこのような見方に反対し、大学を中世社会の中に組み込まれた一要素としてとらえ、大学の外の社会の諸関係が、大学の中にも厳然と反映していたことを強調している。例えば、貴族や都市市民などの身分の別が大学内部にも持ち込まれて、貴族学生が特権的地位を保ったこと、学籍登録簿からうかがわれる学生の経済力の格差が学位取得率にも影響を与えたこと、などが指摘されている。こうしたドイツ学界の成果を参照しつつ、1450年までのドイツの諸大学の設立事情とそこにおける法学の意義を検討したが、これまでのところ、従来主に注目されてきた設立君主の利害だけではなく、より複雑な社会的関連を視野に入れる必要があることが確認された。とりわけ重要と思われるのが大学と教会の関係である。ドイツ最古のプラハ大学の成立と初期の運営には、大学の教授たちとプラハ大司教座の聖職者との重なりなどが示すように教会が決定的に大学を担っており、特に法科大学についてこの関係が著しく、それゆえそこでの教育も教会法が中心であった。また、プラハに続く諸大学の設立は1370年代末のシスマの発生という教会史的条件によって決定的に促進され、これらの大学でも例えば教師の収入のかなりの部分を聖職禄が占めるなど、大学と教会的諸制度とのからみあいが広く認められた。従って法学の意義についても、領邦君主の現実の支配への寄与だけでなく、教会組織における地位の確保や威信の向上という側面も考慮されるべきであることが明らかになった。
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