1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10730005
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
吉川 英治 滋賀大学, 経済学部, 助教授 (80263036)
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Keywords | 潜在能力アプローチ / 社会的正義 / 福祉 / 選好の内省的変化 / 権力構造 |
Research Abstract |
平成10年度の研究では,「アマルティア・センの潜在能力アプローチ」の理論的拡張に関連する準備的作業を行った。まず,センの理論的枠組みに対する新たな評価論文ないしは関連文献を収集・精査して,私がこれまでに得た知見と照らし合わせながら,この研究の問題意識と目的の独自性を自己評価した。この研究の独自性は,センの枠組みの背景にある哲学的ないしは方法論的基礎の含意の解釈にある。具体的には,コミットメントという行動の動機がはたらく場を,個人と社会の間の中間領域ないしは中間組織に求め,そこでの学習過程とそれによる選好と動機の内省的変化が,公共的意思決定に及ぼす影響を抽出していることである。「研究発表」に記載した論文はこの論点を取り扱っている。 次に,この自己評価の過程で,センの理論的枠組みに対する批判的な見解を考察した。特にフランク・ハーンの見解は,功利主義とそれを基礎とする厚生経済学をどう処遇するかに深く関連するので,なお一層の精査を必要とすることが了解された。この点についての論考は,平成11年度初めに公表を予定している。 最後に,この研究とラディカリストの議論との関連性についての新たな知見は,(1)選好の内省的変化の捉え方と,(2)社会の基底にある権力構造の理解の仕方に,求めることができる。(1)については,ラディカリストの研究の核心が社会学・文化人類学・宗教学の領域にも跨っていること,(2)につぃては,ハーバーマスやフーコーを巡る現代哲学の議論と深く関係することが明らかとなった。したがって,当初予定していた理論的拡張の骨子を固める作業は未だに収束していないが,(1)と(2)の論点を巡る現在の研究は,当初の研究計画を完結するのに必要不可欠な作業であると判断している。
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