1998 Fiscal Year Annual Research Report
1900-30年代ロシア経済学における限界学派とリベラル学派
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10730011
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤原 真史 (森岡 真史) 立命館大学, 国際関係学部, 助教授 (50257812)
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Keywords | ブルックス / ミーゼス / 経済計算論争 / 市場経済 / 資本主義 / 限界理論 / 社会主義計画経済 / ロシア革命 |
Research Abstract |
(1)19世紀末〜20世紀初頭にかけてロシアの経済学界ではリカード=マルクスの経済学が支配的であり,限界理論は,自由主義的傾向をもったマルクス主義者により,労働価値論の欠陥を修正ないし補完する経済理論として導入されるという特異な経過をたどった。この段階で特徴的なのは自由主義とマルクス主義,労働価値論と限界原理の調和が試みられたことである。(2)20世紀に入ると,マルクス体系から完全に離れ,限界原理および市場均衡(需要と供給のバランス)に立脚する経済学者が現れるが,その数は少ない。この時期(1900年代〜第一次世界大戦)の経済学者の議論はロシアにおいて資本主義的発展を推進(あるいは阻止)する具体的政策への評価に集中し,理論には十分な関心が払われなかった。(3)ソヴェト体制に否定的態度をとった経済学者は,「戦時共産主義」期の悲惨な生産低下を背景に,自由市場と私的商業,私的な動機と整合的な経済政策の必要性を強調したが,これらの議論の多くはいわば直感的・経験的な経済的自由主義であり,必ずしも経済理論に裏付けられたものではなかった。それらはソヴェト政府の政策に対する批判であっても,社会主義の原理的批判(市場経済の原理的擁護)とはなっていない。(4)しかし,少数ではあるが,経済破綻の原因はマルクスの社会主義経済構想そのものに内在していると指摘し,経済的自由主義を近代経済理論によって基礎付けようとしたボリス・ブルックスに代表される一群の亡命ロシア人の存在がある。彼らの理論的貢献は経済学史的に,とくに経済体制論,比較制度論の分野できわめて大きな意義をもっており,本格的研究が必要である。(4)限界原理の研究は,ソヴェト体制下でも当初は,これを合理的な計画作成の道具として用いるという立場に限って許容されていたが,20年代末の弾圧によりほぼ完全に消滅し,その本格的復活は60年代を待たねばならない。
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