1998 Fiscal Year Annual Research Report
文明開化が近代日本の民衆生活に及ぼした影響に関する経済的実証分析
Project/Area Number |
10730033
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中西 聡 北海道大学, 経済学部, 助教授 (20251457)
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Keywords | 文明開化 / 近代日本 / 民衆生活 / 消費生活 / 舶来品 |
Research Abstract |
本年度は研究実施計画に基づいて、富山県の宮林家と大阪府の廣海家の所蔵史料調査を10月に行い、補足資料を11月に東京で収集して、文明開化が宮林家と廣海家の消費生活に及ぼした影響を、自作農の消費生活と比較しつつ経済的に実証分析した。その結果次のような知見が得られた。 (1) 宮林家の場合、日常的消費財の購入が判明する「通帳」を検討した結果、舶来品の購入が薬や衣類の面で明治20年代より見られた。ただし明治30年代でも近世来の商品も購入しており、近代的な消費生活と伝統的な消費生活が併存していた。一方非日常の生活世界であった旅行においては、舶来品の過度な購入や文明開化関連の支出が見られ、近代的な生活世界への強い欲求が現れた。 (2) 廣海家の場合、居住地の貝塚では明治10年代には舶来品を扱う小売商はほとんど存在せず、廣海家は大阪との取引関係を活かし、手代を大阪に派遣した際に、買物代を渡して、大阪で舶来品を購入させた。こうして廣海家は明治10年代から近代的な生活世界に触れることが可能となった。 (3) 宮林家・廣海家ともに明治前期の年間現金支出が数千円の有力資産家であったが、年間現金支出が100〜200円程度の自作農の消費生活でも、砂糖・石油・ランプなどの消費は明治20年代には広く行われた。しかし時計・眼鏡・毛織物類のような高額のものは、明治後期に至っても、自作農の消費生活には登場しなかった。それゆえ真の意味での近代的な消費生活を送ることができたのは、明治期は有力資産家層に限られたと言える。 以上の研究成果を踏まえ、次年度はさらに消費生活が判明する自作農の事例研究を増やし、階層間格差と地域間格差の関連を検討して、明治期民衆の消費生活の全体像に迫る計画である。
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