Research Abstract |
本研究の目的と実施計画は,l.貝形虫による古水深指標の参照系を作成するため,海洋調査を行うこと.2.内湾貝形虫を飼育し,海洋環境と殻の成分との因果関係をさぐること.3.これらの成果等をもとに貝形虫から主に第四紀の海面・地殻変動様式を探ることである.以下に各目的に対する成果と進行状況を列挙する. 1, 7月に三河湾中部で現世貝形虫の生体・遺骸群集と海洋環境(水深,水温,pH,溶存酸素量,塩分)の調査を行った.南北方向に1測線を設け,約1.0km間隔の合計16地点で実行した.結果として,(1)水深に分布が規制されている種が認められ,これらは古水深指標として有望であることがわかった.(2)水深約18m付近の泥底には生体が存在せず,かつ遺骸も少ないことが認められた.これは三河湾では夏場に溶存酸素量の極小水塊が形成されることが主要因であることも確認した.次年度ではさらに多くの地点で調査する計画である. 2, Bicornucythere bisanensisを採取し,現在インキュベーターにて飼育実験を続行中で,化学分析に関しても実験精度,設備などに問題点があったが,解消され,次年度ではこれを中心に研究を進める計画である. 3, 大阪湾周辺域の完新統(難波層あるいはMa 13層など),房総・三浦半島の完新統,および秋田県の第三/第四系(笹岡層など)から多数の試料を採取し,それぞれについて貝形虫化石の群集解析を行った.結果として,(1)大阪湾地域では約4,500年前に海面高頂期があり,明石海峡からの潮流と沈降運動の影響を受けていることがわかった.(2)これに対し,房総・三浦半島では約6,500〜7,000年前に海面高頂期があり,周期的な沈降・隆起運動の様式とその絶対量を見積もることができた.(3)秋田に関しては2つの異なる次元の周期を持つ貝形虫の群集変化を認めたが,その要因については次年度の検討課題である.
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