Research Abstract |
本研究はサーモクロミックエチレン型化合物(TE)の合成と,そのコンフォメーション変化を利用した分子スイッチ素子への展開を目指している.本研究に先立ち,ビ{4H,8H-4-(ジシアノメチレン)ベンゾ[1,2-c:4,5-c']ビス[1,2,5]チアジアゾール-8-イリデン}(1)では,従来のTE類とは異なるコンフォメーション挙動が見出されている.従って,スイッチ素子としてこれらは相補的に働き得るが,1は全ての炭素が4級化されており更なる化学修飾は困難である.そこで本年度は1の類縁体として合成は報告されているもののその性質は知られていない,4,4'-ビナフト[2,3-c][1,2,5]チアジアゾリリデン]-9,9'-ジオン(2)について検討した.2は更なる化学修飾が可能な分子である. ジケトン2は,1によりもビアントロン(3)に構造的に近いがその性質はむしろ1に類するものであった.結晶状態で2は黄色及び赤色の2種類の色調を呈するコンフォマーが存在し,熱や圧力によって相互変換することが示された.このうち赤色の結晶中の分子構造はX線構造解析により,folded-twisted構造をとっていることが明らかとなった.また2の溶液は赤色を呈し,種々のスペクトルによる考察からfolded-twisted構造に由来するものであることが示唆され,このことは計算化学を用いた考察からも支持された.即ち,3から2,1へと構造の修飾を重ねるにつれ,foldedからfolded-twisted,twisted型へと分子の安定コォンフォメーションが連続して変化する興味深い挙動が見出された. 次に,ビ{4H,8H-4-(ジシアノメチレン)ベンゾ[1,2,5]チアジアゾール-7-イリデン}(4)の合成と性質を検討した結果,テトラシアノジフェノキノジメタン誘導体として初めて完全な平面構造を有する,安定かつ強力な電子受容体であることが見出された.そこで幾つかの電子供与体との電荷移動錯体や,アニオンラジカル塩の伝導性について評価したところ,高い伝導性を有し有機伝導体の構成成分として有望であることが示された.尚,4については雑誌に発表済みである.
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