Research Abstract |
本研究では,散乱波から物体を推定する逆散乱問題に対し,未知パラメータを作用素に変換し,その作用素方程式に基づいた新規な解法の提案を目指している.本年度の結果および残った課題をまとめる. 1. 物体への入射波を散乱波に変換する作用素(T作用素)を導入し,さらに,形式的に物体を作用素として扱うことで,T作用素と物体との関係を示すT作用素方程式を得た. 2. 1作用素方程式をブラとケットのベクトルで挟み,さらに,物体関数を,直交関数で展開表現した.これより,2つの行列方程式を順次解けば物体が推定できる,非反復アルゴリズムを導出した.行列方程式の解法として,特異値分解による一般逆行列を用いた. 3. ブラとケットベクトルの組合わせにより,4つの再構成法を導出した.このうち,2つは新しい手法であり,2つは報告例のある,等価電流法等の手法に等価であった.T作用素方程式は,一般的な表現であり,的確にブラとケットベクトルを選択することができれば,優れた解法が提案できる可能性がある. 4. 単層の無損失誘電体に対して,数値解析により有効性を検討した.項目3の新しい解法の1つは,ボルン近似を越えた精度を得,かつ,等価電流法と等価な手法よりも真値に近い再構成結果を与えた.しかし,従来の研究で得た規範となるべく適用限界までの有効性は得られておらず,また,入射数・観測数の増加に対して再構成精度の改善がないという制限が見られた.従って,行列方程式の解法については,代替の方法の調査を行う必要がある.また,適用限界については,推定パラメータの設定が異なるために単純に比較ができない可能性があるため,単層円柱等の規範的な散乱体に対する解析解を通じ,詳細な検討を行う必要がある. 項目2-4は,引き続き,さらに詳細に検討する予定である.
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