Research Abstract |
ポンペイ遺跡監督局より正式な許可を得て,平成10年11月,RegioV insula i,28-30にて実測調査を実施した。精度20分の1程度の平面図,立面図を作成するためのデータを収集した。また,調査対象の建設年代について考察するため,壁体を構成する石材や煉瓦に関する情報も記録した。現在は,収集した資料の整理および現状図面の制作を準備している段階であり,来年度には,紀元後79年の状態を復原した図面および3次元復元モデルを提示する。また,調査対象の区画には,切石積みから乱石,編目積み,煉瓦積みなど(とくに煉瓦積みと乱石積みの切り合いでは,紀元前1世紀に特徴的な短冊状ではない鋸歯状の継ぎ方が用いられている。),紀元前2世紀から後1世紀にわたる多様な建築構法が見られ,長い時間をかけて最終的な状態が形成されたと考えられる。したがって,現在までの調査経験を生かしながら,本区画が形成された過程を明らかにする必要がある。また,当初の目的であったコンポジット・ティンバー(平成9年の予備調査において予測されていた。)による梁の存在を裏付ける梁穴が確認され,この部分を特に精密に測量した。ポンペイにおけるコンポジット・ティンバーの復原はかつて例が無く重要な報告となるため,慎重に復原考察を進めている段階である。その他にも,新たに地階の壁厚と2階の壁厚が大きく異なる(2階が20cm程度薄い)こと,、および他の区画に比べて,梁穴が大きく,間隔の狭いことが認められた。おそらく上階からの大きな荷重を支えるために地階壁の強度を大きくした結果であると推定される。調査対象の住宅が店舗,あるいは工房であったことを考えあわせると,2階に保管庫,あるいは一部の住宅には2階にトイレが確認され,住居として利用していた可能性が指摘される。これらの研究成果を踏まえ,次年度では,他の研究者の意見も考慮した上で,論文としてまとめる予定である。
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