1999 Fiscal Year Annual Research Report
現代日本人小児の環境鉛暴露源の安定同位体分析による解明
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10770159
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉永 淳 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 助教授 (70222396)
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Keywords | 鉛 / 安定同位体比 / 乳歯 / 環境 / 汚染源 |
Research Abstract |
平成10年度に測定した日本人小児乳歯の鉛安定同位体比測定結果より詳細に検討するために、本年度は環境試料の鉛同位体比分析を行った。試料は天然由来鉛の摂取源と考えられる日本産の代表的な岩石(安山岩、花崗岩、玄武岩)、経気道摂取源として可能性のある一般廃棄物焼却灰、経口摂取源として重要な食物(国内23都道府県から収集した6日間の食事を混合、均一化したもの)である。その結果、これらの試料の鉛同位体比(以下順に207/206、208/206)は、岩石が0.843〜0.847、2.093〜2.103、焼却灰が0.862〜0.869、2.105〜2.112、食物が0.856、2.087であり、小児乳歯(n=17)の平均同位体比0.866、2.111に最も近いのが焼却灰であった。ただし、焼却灰の同位体比は、報告されている一般大気の粉塵中の同位体比とほぼ一致しているため、焼却灰が直接の摂取源かどうかは明らかにならなかった。これらの各種環境試料の鉛同位体比の実測値、報告値と乳歯の同位体比を同じグラフ上にプロットすると、1980年代以前(本研究対象小児の誕生以前)に用いられていた有鉛ガソリンの摂取を示唆するものとなった。おそらく母親の骨に蓄積していたガソリン由来の鉛に子宮内で曝露していたことを示しているものと考えられた。以上の結果から、現代日本人小児の鉛摂取源として、これまで知られていた食物、大気以外にも、母親の骨由来のものも無視できない可能性が明らかとなった。現在日本の鉛環境汚染レベルは低いものの、神経系の形成・発達期である胎児期に、かつてガソリンによって大量曝露していた母親経由で曝露される鉛による影響について、今後詳細な研究が必要であることが示された。
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