Research Abstract |
一年目にあたる今年度は,高齢人口移動に関する既存研究のレビューと,高齢期の居住地移動の空間構造のモデル化に向けた基礎的分析を行なった. 既存研究のレビューについては,欧米における高齢人口移動研究を中心に整理した.これまでわが国ではあまり紹介されてこなかったが,欧米の蓄積は厚く,研究の体系化・理論化,視点,方法論などの点で参考になった.とくに,わが国では語られることの少なかった研究の体系化・理論化に関して指針を得ることができた.それによると高齢人口移動の研究テーマは,1)高齢人口の空間的分布,2)移動の諸側面,3)概念化・モデル化,の3分野に大別でき,2)移動の諸側面については,移動流の地域パターン,選択性,季節移動,大都市圏一非大都市圏間移動,帰還・逆流移動,移動のインパクトといった分野に整理することが可能である. これと平行して,マクロ,ミクロの両面からモデル化に向けた基礎的研究を行なった.前者については,国勢調査の移動データに基づき,移動流の地域パターンを検討した.具体的には,高齢人口の移動類型別(市区町村内移動,市区町村間移動,都道府県間移動)の移動率,地域間流動の量,率などについて,都道府県別,年齢階級別に検討することによって,移動の実態を定量的に明らかにした.同時に,非高齢人口と比較することによって,短・中距離移動が圧倒的に多いという高齢人口移動の特徴を確認した. 一方,沖縄などをフィールドとした事例調査も実施した.沖縄では本島本部の一集落を対象として,住民の転出入や生活構造,地域社会の状況などを分析することによって,高齢期における帰還・逆流移動の実態,およびそのインパクトについて検討した.
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