1998 Fiscal Year Annual Research Report
山腹集落における山地農業の平地農業化に関する環境認知論的研究
Project/Area Number |
10780052
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
中村 康子 東京学芸大学, 教育学部, 助手 (20293003)
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Keywords | 四国山地 / 農業的土地利用 / 環境認知 / 意思決定 |
Research Abstract |
原料供給地として機能した山地集落の生産活動は、マクロレベルの社会経済の直接的影響を受け易い。この点をふまえ、まず、高知県越知町の山地集落を事例に、経年的な変化を追える町・県レベルの統計と照合することで、資料不足から集落レベルでは断片的にしか把握できなかった農業経営の変遷を連続的に把握した。明治初期の楮、木炭、茶を主産物としてきた山地集落では、明治中期から昭和初期にかけて、三椏の導入、養蚕の導入、蒟蒻栽培の強化など、山地斜面や山地土壌に適応的な経営部門を付加し、さらに、戦中・戦後期の食糧増産により農業化が進展した。1960年頃の三椏栽培および木炭生産の衰退により、山地農業は転換を余儀なくされ、模索期を経て、1970年代半ば以降、生姜、薬草など畑作物の拡大がみられた。こうした変化の中で、重点を置く経営部門の違いから地域分化が生じ、それには集落の地形的な立地位置で規定される土地利用空間の自然条件が寄与することが示唆された。これは、外帯山地の地域性に関わる問題であり、従来、ほとんど検討されてこなかった外帯山地の農業的土地利用を土地的自然との関わりで捉え直す必要があり、それには環境認知論的観点が有用である点を指摘した。 1980年代後半以降〜現在の越知町の主要作物である薬草栽培の現状と経緯について調査を行い、薬草生産は横畠地区の山腹集落、明治地区の山腹集落で定着し、河谷部の集落では定着しなかった点が明らかになった。栽培の導入から定着に至る過程では、製薬会社による生産地の探索、高知県を介しての栽培の受け入れ、山腹集落に居住する中核的農家による試験的栽培及び作物選択、土地的自然を勘案して導入を図る農家の選択が示唆される、また、近世・明治期の山腹における農地造成、1960年頃の重機による緩傾斜畑の平坦地化、農事組合が調整役を担う相互扶助的な生産組織の存在も重要である点が伺えた。
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