1998 Fiscal Year Annual Research Report
明治初期における翻訳家政書の原典解明-「経済小学 家政要旨後編」および「家内心得草」を中心に-
Project/Area Number |
10780074
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
谷口 彩子 熊本大学, 教育学部, 講師 (90259763)
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Keywords | 翻訳家政書 / 明治初期 / 家政学成立史 / 永峯秀樹 「経済小学 家政要旨後編」 / Combe "the management of infancy" / Bull"Hints to Mothers" |
Research Abstract |
明治初期に最も普及したとみられる永峯秀樹纂訳『経済小学 家政要旨 後編』(以下、『家政要旨 後編』と略す)の原典解明および原書と訳書との比較研究を目的として研究を行った。 研究の結果、『家政要旨 後編』の原典は、つぎの2冊の原書であることがわかった。 1) Andrew Combe“Themanagement of lnfancy,"D.Appleton and Co.,New York, (1875) 2) Thomas Bull“Hintsto Mothers,"Longmans,Green,andCo.,London, (1876) なお、本研究において入手できた原書資料は、それぞれ1871年版(内閣文庫所蔵)と1876年版(国立国会図書館所蔵)である。 コム『子女教養論』は、子どもを持つ親ならびに若い医者の入門書として執筆されている。その背景には乳幼児死亡率の高さがあった。コムは乳児死亡率を改善するための手だてとして、育児を担当する母親に生理学的知識を提供することによる改善を意図した。その内容は、結婚前から、妊娠・出産・育児期という女性のライフコースに沿った記述に特色がある。 一方、ブル『母親の心得』の刊行目的も女性に妊娠・出産に関する知識を提供することにあった。 いずれの原書もイギリス人医師によって執筆されている。その特色は、19世紀の発達する医学の成果を、家庭生活へと応用を試みている点にある。生理学・衛生学を家政学に導入しようとする観点は、19世紀アメリカ家政学の開拓者と称されるビーチャーにも影響を及ぼしている。本研究では、19世紀の欧米家政教育に科学を導入した先駆的役割を果たした原書が、明治初期における翻訳家政書として、わが国でも刊行されていたことを確認した。このような欧米家政教育の影響のもと、明治期以降、家政学・家政教育の内容に科学的知識を導入する動きが活発化していく。
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Research Products
(1 results)