1998 Fiscal Year Annual Research Report
近現代史のカリキュラム開発における歴史意識とディスコースに関する研究
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10780122
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
江間 史明 山形大学, 教育学部, 助教授 (20232978)
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Keywords | 近現代史教育 / カリキュラム開発 / 歴史意識 / ディスコース / 歴史教育 |
Research Abstract |
今年度は、以下の研究をおこなった。 (1) 教科書センター図書館の資料を調査・複写して、中学校の戦後歴史教科書における昭和戦前期の記述の変化を検討した。この結果、十五年戦争史論が、1977年から中学校歴史教科書に徐々に位置づき、1986年に教育内容構成原理として確立していることが明らかになった。 たとえば、東京書籍の教科書についてである。1986年以降の内容構成と1960年代の内容構成と比較すると、次の点を指摘できる。それは1960年代においては、「ファシズム諸国の同盟」(枢軸国対連合国)というストーリーが、時期区分(内容配列)上、満州事変と日華事変の連続性を分断していることである。日華事変は、第二次世界大戦の一部として構成されている。これが、1977年を転機として、対中戦争責任の明確化という歴史意識から、満州事変と日中戦争の連続性が強調されるようになっている。満州事変以降15年にわたる戦争ということである。 以上のような内容構成の歴史的分析については、次の学会発表で報告した。発表題目「戦後歴史教育における十五年戦争史観の受容と展開」(日本社会科教育学会・全国社会科教育学会・共同研究大会、1998年10月、広島大学)。 (2) 昭和戦前期における国民の「民主主義に関する意識」について、男子普通選挙制に焦点をあてて調査をおこなった。戦前の男子普通選挙制は、点字投票や不在者投票が設けられ、秘密投票であった。この選挙をどのように国民がうけとめていたのかについて、当時の新聞記事や日記類から資料をあつめた。そして、この資料を用いて、1937年第20回総選挙を素材とする授業プラン「君はどう投票する?」を開発した。 (3) 山形大学附属中学校2年生のクラスにおいて、大正時代以降の歴史授業を観察・ビデオに記録するとともに、上記の開発授業プランを、私が授業者となって実験授業にかけた。 点字投票などの戦前の選挙制度について、生徒は驚きを感じていた。これは、戦前日本の民主制を否定的にイメージしていることの反映である。また、第20回総選挙について、当時の各政党の候補者の主張を示し、模擬投票と討論をおこなったところ、「棄権」するという生徒が多かった。当時の「既成政党批判」の世論と、現代の「無党派」や「棄権」をもちあげる世論の動向が、生徒のなかでひびきあった結果であると思われる。 以上の検討から、昭和戦前期全体の単元プランを開発・検証することが次年度の課題である。
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