Research Abstract |
本年度は,まず,生細胞を用いた発現系では調製が困難なタンパク質(発現しない,ないしは,発現しても封入体を作ってしまう)を中心として,10種類程度のタンパク質の無細胞系での発現を試みた.対象となったタンパク質は,タンパク質分解酵素,核酸分解酵素,RNAポリメラーゼ等,多岐にわたるが,多くの場合において,可溶性なタンパク質を得ることができた.その際,結合する相手タンパク質が同定されている場合には,相手タンパク質存在下でタンパク質合成をおこなうことが極めて有効であった. また,すでに我々は,無細胞系を用いてタンパク質中の一残基だけを安定同位体標識する手法を確立しているが,今年度は,この手法を拡張し,タンパク質中の一残基だけに重原子置換アミノ酸を導入する手法を開発した.従来の,soakingによる重原子同型置換法では,重原子の配位特異性が低いため,数種類の異なる重原子置換体を作成して,反射データの位相決定をおこなうことが普通であった.これと比べて,新しい手法により調製されたタンパク質の結晶においては,高い同型性が保たれ,重原子の配位特異性が極めて高いことから,1種類の重原子置換体を作成すれば十分であり,しかも,反射データの位相決定も劇的に容易になるため,X線結晶解析法によるタンパク質の構造決定のための試料調製法として,有望なな手法であると期待される.さらに,重金属を使用しないことから,環境に優しいという利点もある.実際には,Rasタンパク質の32位にヨウ化フエニルアラニンを高い効率で導入することに成功し,現在,反射データ測定のために結晶の作成をおこなっている.
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