1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10871007
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
佐藤 研 立教大学, コミュニテイ福祉学部, 教授 (00187238)
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Keywords | トマス福音書 / グノーシス主義 / グノーシス派 / 禅 / 公案 / アグラファ |
Research Abstract |
今年度は機器備品の整備に重点が置かれた。その結果、必要なものはほぼそろったか、又は図書館等で確認ないし複写することができた。これらをもとに元来の比較研究を試みている。具体的な方向として二つ浮上した。一つは、『トマス福音書』の実際の使用用途が、グノーシス主義者たちの共同体における瞑想的教育のための「公案集」であった可能性である。つまり、公案集が禅仏教の僧堂で弟子の修行用に師匠によって与えられる問題の集成であったように、トマス福音書の114のロギオンも、グノーシス主義指導者によって初期信奉者の「修行」用に課せられた瞑想的解明の素材だったのではないかということである。これは、グノーシス主義の教育状態が殆ど分かっていないので困難なテーゼであるものの、可能性として提示はできると思う。第二は、トマス福音書の中で内容的に禅の公案に類似するロギオンの多くが、同福音書の編集のレベルで創作されたものではなく、それ以前から、いわゆる正典福音書には漏れている「アグラファ」(書かれざるもの、の意)として伝承されていた事実を宗教史にどう評価するかである。つまり,トマス福音書全体のグノーシス主義的編集レベルが禅公案集と類似しているだけでなく、同福音書の編集以前の段階ですでに、禅の世界観と相通ずる言葉が初期キリスト教内にーその起源をナザレのイエスとするか否かは別としてー存在したということである。この複層的事態をどう評価すべきか、興味がある。
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