1998 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10871062
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
滝川 睦 名古屋大学, 文学部, 助教授 (90179573)
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Keywords | インタルード / 近世初期英国 / 観客論 |
Research Abstract |
今年度は、近世初期英国のインタルード(interlude)を、シェイクスピア(Shakespeare)の演劇において表象されるインタルードをも研究の射程に入れて、観客論の視座から分析した。従来、インタルードに関しては、「アレゴリーを用いた道徳劇(moralities)とは類を異にする、ジョン・ヘイウッド(John Heywood)のThe Four PPに代表される躍動感あふれるリアリスティックなファルス(farce)」といった曖昧な定義しかなされてこなかったが、本研究は近世初期の演劇とパトロンとの関係を軸に考察を進め、インタルード・役者・パトロンの間に生成される次のような演劇的ダイナミックスを解明した。 1. 1574年に公布された、特別行政区“Liberties"における公衆劇場での上演規制を述べたロンドン市議会の法令においては、公衆劇場で演じられる演劇と、貴族邸で演じられるインタルードは峻別されているが、16世紀末の英国においては、両者を区別する境界線が不分明になっていく傾向があったこと。パトロンによる役者・インタルードの庇護、公衆劇場で集められる木戸銭、劇の上演される空間が、インタルードと公衆劇場で演じられる劇とを峻別する指標だったのであるが、劇自体がインタルードの構造を備えると同時に、インタルードを劇中劇として内に含むシェイクスピアのA Midsummer Nght's Dreamにおいては、そうした指標が両者の劇を峻別する指標として機能していないことを検証した。 2. ロベルト・ヴァイマン(Robert Weimann)がShakesperare und die Tradition des Volkstheaters(1967)で提起した、インタルードに特徴的な演劇空間の位相--特徴的・再現的な劇空間である「座」と、非再現的な劇空間である「場」--の境界が16世紀末から17世紀にかけて破砕されていく傾向があったこと。
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