1998 Fiscal Year Annual Research Report
韓国憲法学の成立過程における国権と人権の関係-日本との比較の視点から-
Project/Area Number |
10872003
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
國分 典子 愛知県立大学, 文学部, 助教授 (40259312)
|
Keywords | 韓国憲法 / 朝鮮開化期 / 兪吉濱 / 朴泳孝 / 徐載弼 / 人権思想 / 穂積八束 / ドイツ国法学 |
Research Abstract |
今年度は、まず開化派の人権思想について考察することから始めた。なかでも親日開化派とされ、日本を通じて人権思想を学んだ朴泳孝、兪吉濬および合衆国に渡って直接アメリカの人権思想を学んだ徐載弼の三人を取り上げ、かれらの人権思想を分析した。かれらの思想はそれぞれ天賦人権的な考え方を示している。しかし他方で、かれらの主張には、こうした人権思想が列強に対する独立の維持や国力の増強といった当時の国家目的と密接な関連をもって唱えられているというところに共通した特徴を見出すことができる。このように国権と人権を対立せずに互いに助け合うものとして捉える思考は、明治期の日本における自由民権運動の性格にも類似し、ある意味で日本も含めたアジア諸国に共通の人権観でもあるように思われる。またこうした思考は、朝鮮のその後の発展のなかで自然権的な人権論よりも国法に基づく法的権利論を発展させる契機にもなったと考えられる。事実、1900年代に入って、朝鮮では愛国啓蒙団体による憲法についての議論や法律専門学校のための憲法の教科書などが現れるようになるが、それらのなかでは法実証主義的なドイツ国法学に基づく説明が圧倒的に多くなっている。 今年度後半は、こうした憲法の教科書のひとつとして兪致衡の書いた『憲法』をかれが手本にしたといわれる穂積八束の教科書と比較検討した。両者の異同を検討すると、兪致衡の議論は全体を通じて穂積の叙述をほぼそのまま受容しているにもかかわらず、穂積の特徴である国体論や公法と私法の区別についての議論が欠けているという特徴があることがわかった。ここには、旧態依然たる当時の朝鮮の国家制度のなかで、特殊日本的な国体論を受容しないことで法実証主義的な性格を堅持しようとする反面、公法、私法の区別をしないために、近代的国家観念を提示しきれないまま、強い国家権力を法的に位置づけようと腐心する朝鮮人研究者の姿が見出せる。
|