1999 Fiscal Year Annual Research Report
日本とドイツにおける技能形成の政治経済学的比較研究
Project/Area Number |
10872008
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
久米 郁男 神戸大学, 法学部, 教授 (30195523)
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Keywords | 技能形成 / 労働政治 / 労使関係 / 日本 / ドイツ |
Research Abstract |
平成11年度は、大競争時代において日本とドイツの技能形成制度がいかなる試練に直面しているかの事実の確定を行うための実態調査をまず行った。その際に日本とドイツの調査が対称的となるよう緊密に調整を図ったが、その調査を進める過程で、日独の技能形成システムを支えてきた労使関係がグローバリゼーションの圧力を受けて大きく変化しているとの認識がますます強く主張されるに至った。そこで、本年度は当初の研究計画を少し変更して、日本における企業内での技能形成を支えた「年功賃金制」と「安定した長期雇用」及びドイツにおける技能形成を支えた産業レベルでの労使関係が、それぞれどの程度変化しているかの調査にシフトした。 ドイツ側担当のセレンは、ドイツ型労使関係の危機が言われながらも、産業レベルの労使関係はその中核的部分において大きく変化していないこと、その理由が国際競争激化の中で経営者がむしろ労働組合の反発を恐れていること、しかし周辺部分の中小企業では、産業別の調整システムが変容しつつあることを示した。これに対して、日本では賃金システムの変化が進む一方、労働者の中核部分の雇用については多くの産業で経営者はその安定を図ろうとしていることを、関係者への聞き取り調査、新聞・雑誌記事の分析、専門家への意見聴取により明らかにした。 これを踏まえて、日独の事例の比較分析を進め、グローバリゼーションに伴う国際的圧力は、しばしば言われるように、日独に特徴的であった労使関係を全面的に変革しつつあるのではなく、その圧力の中にはむしろ既存のシステムの強化を結果するメカニズムがあることを明らかにした。 以上のように、本年度は、技能形成システムそれ自体の分析ではなく、それを支えるより広い労使関係の分析を行い、ケルンでの国際会議で報告を行い、その成果をPolitics&Society誌に発表した。
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