1998 Fiscal Year Annual Research Report
統計力学的手法による宇宙空間プラズマの緩和過程の研究
Project/Area Number |
10874068
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 匡 福井県立大学, 生物資源学部, 助教授 (70270436)
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Keywords | 無衝突プラズマ / Vlasov方程式 / Lynden-Bell統計 / 銀河形成 / 最大エントロピー原理 |
Research Abstract |
今年度は計画時点では予想していなかった理論の基礎的な側面での成果が主であった。本研究をはじめる前は、Kullback-Libler情報量の最大化に基づいたH定理によって、無衝突系の平衡状態の分布を導いていた。しかしKullback-Libler情報量はかならずしも多くのプラズマ物理学者あるいは天体物理学者に知られている概念ではなく、その直感的説明がなかなか困難であるという側面があった。 本年度の研究ではこれをもっと直接的・基本的な最大エントロピー原理から導くことを行った。これにより、以前には必ずしも明確ではなかったLynden-Bell統計の根本的問題が明らかになるなど、無衝突系の統計力学の基礎的な理解が進んだ。ここで行ったのはE.T.Jaynesの最大エントロピー原理による統計力学の基礎づけの方法と同型の技法を無衝突系に適用したものであり、初期値を指定することによって、Lynden-Bellの指摘した位相空間体積保存の束縛条件もとりこむことができる。結果はLynden-Bellの理論と異なり、非縮退極限で単一の温度(速度分散)をもつマックスウェル分布が得られた。 この計算の過程で、Lynden-Bellの理論は、遷移確率から計算したエントロピーを用いて最大エントロピー分布をもとめた場合と等価であることがあきらかになった。それに対し、われわれの理論では存在確率から計算したエントロピーを用いている。われわれのアプローチは標準的な統計力学と同じであり、また、基本的なLouvilleの定理での位相空間に先験的等確率をおくことになるので、こちらの方が正しい。したがって以前から種々の矛盾が指摘されていたLynden-Bellの理論どこが基本的にまちがっているかが明らかになったと言ってよいであろう。
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