Research Abstract |
藻類の系統進化を浸透制御やイオン制御の観点から見た研究はほとんどない.浸透圧制御に用いるカチオンについてみれば,K^+とNa^+の使用に系統の違いは見られないが,その対イオンであるアニオンについて,不思議なちがいが認められた.黄色植物フシナシミドロは,塩素イオンが豊富な外液環境においても,塩素イオン(Cl^-)より硫酸イオン(SO_4^<2->)を好んで吸収する.一方,同じ培養液で同時に行った実験で,緑色植物マリモはSO_4^<2->は吸収せず,もっぱらCl^-を吸収して浸透圧や膨圧を調節する.同様のことはシャジクモでもよく知られている.この違いが,界の違いに由来するのか,あるいはもっと下位の系統の違いに由来するのかを調べることが,本研究の目的である.平成10年度は,そのための実験系の確立につとめた. 黄色植物として淡水産フシナシミドロ3種,汽水産フシナシミドロ1種,卵菌ミズカビ,緑色植物として,シャジクモ,マリモ類数種,ヒザオリ,ニワツノゴケ,および,種子植物のヒンジモの収集と培養をほぼ確立した.さらに系統保存機関からいくつかの藻類種を取り寄せ,本研究に適した,淡水系と汽水ないし海水系の2種の単純な培養システムを開発中である. 一方で,神戸大学の川井らとの共同研究を行い,黄色植物の代表ともいうべき海産褐藻類の,アミジグサ目藻類での硫酸(H_2SO_4),あるいは,SO_4^<2->の蓄積を比較解析した.この目には,高濃度のH_2SO_4を蓄積し,雨水に打たれる等の急激な外液浸透圧低下で自らが死ぬと,流出したH_2SO_4で周辺の藻類をも殺してしまう種がある.ところが,酸を蓄積しない種でも,ほぼ匹敵する量のSO_4^<2->をもっていることをあきらかにした(1998植物学会,1999藻類学会).これらはH^+のかわりにMg^<2+>を多量にもっていた.これは,フシナシミドロでの結果に一致する.
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