Research Abstract |
高分子の導電性には,分子内電導と分子間電導が混在しており,実際の試料の電気抵抗を律則するものは分子間電導であると考えられる.この導電率の速い成分と遅い成分が分離できれば,導電性高分子の導電機構の解明が多いに進展する.本「萌芽的研究」では,この分離を可能にする複素非線形導電スペクトル測定システムの構築を目指した.本年度は昨年度に続き,従来不可能であったMHz以上での複素非線形導電スペクトルの測定の可能性を追求した.詳細は以下の通りである.従来の測定装置では非線形応答をひとつの正弦波に対する応答電流の高調波歪として測定するため,MHz以上ではサンプリング周波数が高くなり,分解能が低下し,重要な高周波極限の情報が得られない.この欠点を改良するため,二つの刺激の相互干渉を調べる測定法が,原理的に,高周波域での高精度化に有効であるかを,装置を試作し,検討した.その結果,本年度前半には,60MHz程度までは,非線形応答が精度よく検出できるようになった.ただ,試料やその状態によらず分子内電導と分子間電導の寄与を完全に分離するためには,GHzまでの測定が必要である.そこでその後,改良を更に加え,最近,測定周波数の間隔(300MHz毎)は粗いが,1GHzまで測定が高精度にできるようになった.そこで,本装置により,電気抵抗を律則する二つの成分の分離をモデル物質を用い試みた.モデル物質としLi^+を含んだブタジエン系高分子固体電解質粒子(粒径80nm)をPMMA中に分散させた樹脂を用いた.得られた複素非線形導電スペクトルから,MHz以上の高周波(短時間)側と数Hz以下の低周波(長時間)側のイオン移動距離をそれぞれ別個に求めた.その結果,モデル物質中のイオン移動は,二つの時間尺による素過程(粒子内(短時間),クラスタ間(長時間))を持ち,その律則過程はクラスタ間の移動であることが判明した.即ち,この結果は,電気抵抗を律則する過程の分離に道を開いた. 今年度の結果が示すように,本「萌芽的研究」で提案した二つの刺激の相互干渉を調べる方法を用い,複素非線形導電スペクトルを測定することは大変有効である.今後,本「萌芽的研究」の成果を生かし,機能性高分子物質の物性解析に貢献していきたい.
|