1999 Fiscal Year Annual Research Report
鶏の熱死誘導機構に関する萌芽的研究:生命維持機構の破綻
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10876056
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
豊水 正昭 東北大学, 大学院・農学研究科, 助教授 (80180199)
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Keywords | 熱死 / 暑熱ストレス / 糖代謝 / 鶏ブロイラー / エネルギー代謝 |
Research Abstract |
急激な環境温度の上昇によって頻発する熱死被害による経済的損失は大きく、鶏生産現場で深刻化している。この問題の解決には、熱死における生命維持機構の破綻に関与する特異的因子を検索が不可欠である。これまで、高温環境下で熱死が発生する実験系を構築しており、本年度は熱死発現機序の一端を解明するため、熱死誘導過程におけるエネルギー栄養素の動態、特に糖の代謝を明らかにした。21日齢ブロイラー雄を供試し、飼料定量給与2時間後に38℃と24℃に暴露したのち、経時的に採血し、血漿グルコース濃度と血漿乳酸濃度の推移を調べたところ、暑熱区において血漿グルコース濃度は温度感作60分以降において急激に減少し、また乳酸濃度も温度感作直後より有意に減少した。このことから、急性暑熱条件下における血中グルコースの濃度の急激な低下は嫌気的呼吸亢進のためではないと考えられた。そこで、体全体におけるグルコースの消費系の活性を推定するため、脳、肝臓、腎臓、小腸、心筋、胸筋、腹斜筋(呼吸筋)を採取し、各組織のピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)の現活性を調べた。その結果、脳・腹斜筋のPDH活性は38℃区で24℃区より高く維持され、小腸・胸筋のPDH活性は38℃区で低下が観察されたが、肝臓・腎臓・心筋のPDH活性は24℃区と38℃区においては差が認められなかった。さらに、肝臓からのグルコース供給量を肝グリコーゲン量の推移から調べたところ、肝グリコーゲン量は温度感作直後より24℃区で緩やかな減少が観察されたのに対し、38℃区では60分後まで急激に減少し、それ以降は横這いであった。それ故、暑熱曝露開始60分までは肝臓グリコーゲンからグルコース産生が活発に行われ、多量のグルコースが血中に供給されるが、60分以降は肝臓からのグルコース供給は極端に低下していることが予想された。 エネルギー栄養素摂取時における本熱死誘導実験から、血漿グルコース濃度の低下や一部組織におけるグルコース異化活性の亢進ならびにグルコース供給能の低下など、急性暑熱暴露下においては通常時と全く異なる、極めて特異的な代謝状態にあることが明らかとなった。
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