Research Abstract |
[目的]脳梗塞の約半数は穿通枝系に生じるが、これまで穿通枝系に限局した脳虚血モデルは知られていない.今回栓糸を用いて中大脳動脈(MCA)を閉塞することなく,大脳深部領域虚血モデルを作成することを試み,体温変化,症候および病理組織に関する検討を行った.前年度は,栓糸の違いによる梗塞巣の再現性を検討したところ,3-0外科用ナイロン糸が比較的再現性が良好であったため栓糸としてこれを用いた. [方法]36匹のwistarラット(12-14週齢)を用いた.麻酔下に,右総頚動脈よりコーティングした3-0ナイロン糸を挿入し,MCA分岐部より1-2mm中枢側で,頚動脈分枝部から14.5-17mmの位置に留置した.虚血後1,3,24,48,72hに覚醒状態で直腸温測定と姿勢反射観察を行った.虚血72h後に断頭,連続脳切片を用いてTTC染色を行い梗塞体積を計算した.また6μの脳切片を作成し,H&E,TUNEL染色にて組織学的検査を行った.他の12匹ではナイロン糸を13mm挿入しsham群とした. [結果]36匹中,3匹が死亡,8匹で広汎または部分的MCA領域梗塞(MCAI)がみられ,残り25匹に大脳深部領域梗塞が作成された.内包を中心とした前脈絡叢動脈領域梗塞(AChAI)が13匹,内側視床下部および視束前野におよぶ視床下部動脈領域梗塞(HTAI)が12匹であった.体温は,sham群と較べHTAI群では虚血後72hまで有意な上昇がみられ,AChAI群,MCAI群では24h有意に上昇しその後低下した.姿勢反射異常は,AChAI群、MCAI群の全例とHTAI群の一部にみられ,虚血1hでMCAI群ではAChAI群およびHTAI群に比し有意に強くみられた.梗塞体積はHTAI群,AChAI群,MCAI群で各6±1,48±10,381±30mm^3であった.また,内側視床下部梗塞はMCAI群全例にみられ,AchAI群ではTTC染色上54%にみられたが,組織学的には77%にみられた. [結論]1)大脳深部梗塞の作成を試みたところ絶対成功率は69%であったが,体温変化及び姿勢反射のscoreによって82%の成功率が予測できた.2)脳梗塞後の体温上昇はHTA領域の損傷に関連することが示された.3)姿勢反射はAChA領域の大脳構造に関連することが示唆された.
|