2001 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10CE2005
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹中 修 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (00093261)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三上 章允 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (40027503)
林 基治 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (10027500)
西田 利貞 京都大学, 理学研究科, 教授 (40011647)
古市 剛史 明治学院大学, 一般教育部, 教授 (20212194)
景山 節 京都大学, 霊長類研究所, 教授 (20027501)
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Keywords | チンパンジー / 文化的行動 / 化石霊長類 / 横断的成長発達 / 脳形態発達 / 認知機能発達 / 類人猿マイクロサテライト / 類人猿地域分化 |
Research Abstract |
本研究課題を1)社会・生態、2)形態・古生物、3)認知・脳科学、4)分子・遺伝の4版構成で、最終年度に向けての準備も考慮して研究を進めた。 社会生態では、前年度に続いてウガンダ国カリンズの調査地としての整備を進めた。現地のスタッフの連日に及ぶ観察によりチンパンジーのいわゆる「人なれ」が急速に進み観察が容易となった。個体識別をべースとしたDNA分析のための糞や尿などの収集が急速に進み、最終年度における分析が期待される。他方35年を超える調査歴史をもつタンザニア国マハレではチンパンジーの文化的行動パターンの発達に焦点を当てた研究が進展した。例えば11歳のワカモノオスが「落ち葉かき」をした直後3歳の弟が同じ行動を示したように、幼児期に年長者の行動を模倣する例が多く観察され、それらのいわば文化的行動の伝承が明かとなった。ゴリラの研究では、カメルーンとガボンで現地調査を行い、集団のサイズと構成についての試料を収集した。低地熱帯林に生息するゴリラでは平均集団サイズが10頭前後で、山地林のゴリラ集団に比べ若干小さいことが明となった。これは山地群が葉食傾向であるのに対し、低地では果実食で採食競合のあることによると考えた。またチンパンジーと同じく離合集散社会を持つクモザルについての調査を行い、大きいパーティーサイズ、小さい遊動域等、チンパンジーと比較し、その生態学的要因を考察した。 形態古生物では、研究所で誕生を見たテナガザル2頭、チンパンジー3頭の身体や運動機能の成長発達研究が進展している。例えばチンパンジー幼児の場合、二足歩行時に両上肢を高くあげたままの歩行、雑巾掛け型四足歩行が多く見られ、マカクではほとんど観察されない行動発達が観察されている。テナガザルの発達では、身体成長はニホンザル等マカクとほぼ等しいが、行動の発達はマカクより遅く、マカクとチンパンジーの中間であることが明かとなっている。古生物研究では昨年度においてタイ北部のChiang Muam累層における東南アジアとしては初めての大型類人猿化石(歯)の発見に続き今年度もさらに歯の化石が発見された。同時に複数の哺乳類化石も発見され生物の多様性が明らかになると共に古地磁気測定による絶対年代の推定を行いつつある。この調査とは別に、ミャンマー国中央部で中期始新世末期のポンダウン層から初期真猿類の化石を多く発見することが出来た。5属6種になることが確実となり、真猿類のアジア起源説を示唆する結果が得られた。 認知脳科学では3頭のチンパンジー幼児脳の形態発達を定期的にMRIにより測定しておりヒトの場合と詳細な比較を行っている。また研究所に保存されている約300個体分のテナガザルからチンパンジーに至る類人猿DNAの遺伝分析から、いわゆる色弱のチンパンジー1頭を発見し、網膜電図測定により赤緑色盲であることが明らかになった。現在色課題による行動実験の準備中であり、チンパンジーひいてはヒトの、色を手掛かりとする認知機能についての研究も可能となった。他方飼育下チンパンジーの認知機能研究では「概念」の獲得という観点での検査を継続した。チンパンジーは「花」という概念を持ち、見たことのない花を花であると認識することが可能であるが、刺激として写真の代わりに、正確に描写した絵、カット画、白黒の線画を用いたところ個体により成績が異なり、全てのチンパンジーがヒトが使用している絵画的表象を認識できるわけではないことが明かとなった。 分子遺伝では、ウガンダのカリンズ国のチンパンジー、ザイール国カフジのゴリラ、ガボン国ムカラバのゴリラとチンパンジーさらにタンザニア国タンガニーカ湖東側のチンパンジー分布域東端および南限等において糞、尿、体毛等の試料を収集し、地域遺伝分化、血縁判定等の遺伝分析を鋭意進めている。 今年度は中間評価の際の人類学との連携という示唆を受け、「暴力の進化史」というテーマで文化人類学、霊長類学からの発表の機会を持った。ゴリラにおける雌雄のきずなと子殺し、ネアンデルタール人類の暴力、母の暴力・父の暴力、平等主義社会における暴力、その他種々の発表があり意見交換の場を持つことが出来た。
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Research Products
(20 results)
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[Publications] Oka, T.: "Wild gibbon's parentage tested by non-invasive DNA sampling and PCR-amplified Polymorphic microsatellite"Primates. 42. 67-73 (2001)
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[Publications] Kim, H.-S.: "Phylogeny of SINE -R retroposons in Asian apes"Molecules and Cells. 12. 262-266 (2001)
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[Publications] Kawamura, S.: "Genomic and spectral analyses of long to middle wavelength-sensitive visual pigments of common Marmoset (Callithrix jacchus)"Gene. 269. 45-61 (2001)
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[Publications] Kim, H.-S.: "Molecular phylogeny of New World monkeys based on TSPY gene sequences from Y chromosomal DNA"Korean J. Genet.. 23. 249-257 (2001)
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[Publications] Nishida, T.: "Do chimpanzees survive the 21st century?"Conference Proceedings of the Apes: Challenges for the 21st Century. 43-51 (2001)
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[Publications] Sakamaki, T.: "An attempted within-group infanticide in wild chinmpanzees"Primates. 42. 359-366 (2001)
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[Publications] 西田利貞: "大型類人猿宣言とそのインパクト"大型類人猿の権利宣言(パオラ・カバリエリ、ピーター・シンガー編). 293-299 (2001)
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[Publications] Basabose, A.K.: "Factors affecting nesting site choice in chimpanzees at Tshibati, Kahuzi-Biega national park : Influence of sympatric gorillas"Int.J. Primatol.. 23. 263-282 (2002)
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[Publications] 山極寿一: "ゴリラと共生できる社会は地球にやさしい"互助組合報. 435. 4-7,12 (2001)
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[Publications] Hanazawa, A.: "Electroretinogram analysis of relative spectral sensitivity in genetically identified dichromatic macaques"Proc. Nati. Acad. Sci. USA. 98. 8124-8127 (2001)
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[Publications] Nakamura, H.: "From three-dimensional vision to prehendile hand actions : LIP links V3A and AIP"J. Neurosci.. 21. 8174-8187 (2001)
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[Publications] Hayashi, M.: "The spindle neurons are present in the cigulate cortex of chimpanzee fetus"Neurosci Lett. 309. 97-100 (2001)
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[Publications] Hayashi, M.: "Changes in BDNF-immunoreactive structures in the hippocampal formation of the aged macaque monkey"Brain Res. 918. 191-196 (2001)
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[Publications] Tanaka, M.: "Discrimination and categorization of photographs of natural objects by chimpanzees (Pan troglodytes)"Animal Cognition. 4. 201-211 (2001)
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[Publications] 田中正之: "チンパンジーの子育て・人間の子育て-子育てを支えるもの-"言語. 31(3). 78-85 (2002)
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[Publications] Nakamura, K.: "Neural substrates for recognition of familiar voices A PET study"Neuropsychologia. 39. 1047-1054 (2001)
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[Publications] 川本芳: "遺伝子研究とフィールドワーク"エコソフィア. 8. 46-53 (2001)
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[Publications] Takai, M.: "A New Anthropoid from the Late Middle/Late Eocene of Pondaung, Central Magumar."J. Hum. Evol.. 40(5). 393-409 (2001)
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[Publications] Huffman, M.A.: "Self-induced increase of gut motility and the control of parasite infections in wild chimpanzees"International Journal of Primatology. 22(3). 329-346 (2001)
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[Publications] Huffman, M.A.: "Self-medicative behavior in the African Great Apes-an evolutionary perspective into the origins of human traditional medicine"BioScience. 51(8). 651-661 (2001)