2012 Fiscal Year Annual Research Report
フランシウム電気双極子能率の相対論的多体理論計算による標準模型を超える物理の研究
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10F00023
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒見 泰寛 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
HULIYARSUBBAIAH Nataraj 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 外国人特別研究員
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Keywords | 電気双極子能率 / フランシウム / 相対論的結合クラスター模型 / 時間反転対称性 / CP非保存 / 超対称性 |
Research Abstract |
基本粒子における永久電気電気双極子能率(EDM)の存在は、時間反転対称性の破れを意味しており、CPT不変性を考慮するとこれは即ちCP非保存を意味する。標準模型を超える様々な理論的枠組みでは有限のEDMを予測しており、EDMは反物質消失の起源に迫るために重要な観測量である。特にある特定の原子系では相対論的効果により基本粒子である電子のEDMが極めて大きく増幅され、微弱なEDMからの信号を高感度で探索するのによい方法である。同時にその増幅度をいかに精度よく理論的に評価するかが、電子EDMを測定する際の鍵となる。 Huliyar氏が研究を進めている相対論的結合クラスター手法は、様々な階層での量子多体系の物理量を計算するのに強力な方法である。特に不対電子を1個最外殻にもつアルカリ原子の高精度計算コードの開発を精力的に進めており、これまで軽いアルカリ原子から段階的に計算を進め、原子の励起エネルギー等、既存の実験値を再現することを確認しながらセシウムに至る重いアルカリ原子まで系統的にEDM計算を行った。そして、阪大、インド等のスパコン、クラスター計算機を活用して、高精度な計算結果を得つつある。 この理論計算手法は、これまでの基礎研究により、原子の励起状態における電子EDMの増幅度計算、ならびに、極性分子における電子EDMの評価に重要な内部有効電場の計算に極めて威力を発揮することがわかってきた。そこで、次世代のEDM探索実験を見据えて、Xeの準安定状態における電子EDMの増幅度、そして、Fr-Sr分子における内部有効電場の計算も並行して進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、原子核反応で原子量最大のアルカリ原子・放射性元素・フランシウムを生成し、そのEDMを探索して、物質優勢宇宙の創成機構を探る事にある。原子EDMから、その電子EDMを抽出するためには、高精度原子EDM測定実験と高精度電子EDM増幅度の理論計算が両輪となって進む必要がある。理論計算は、原子構造計算の第一原理計算を用いて、その理論モデルを本研究で確立し、スパコンでの大規模計算が進行中である。計算のリソースの限度により、計算結果を得るには、もうしばらくかかるが、途中経過を確認しながら、順調に計算は進んでいる。実験の方は、大震災の影響で、加速器の復旧に時間がかかったが、昨年10月より運転再開し、測定着手に向けて準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で確立した相対論的結合クラスター理論による第一原理計算により、EDMとともに、電子と核子(クォーク)間に働くCPを破る相互作用の寄与を評価していく予定である。さらに、他の種類の原子、特に、準安定状態で増幅度の高い原子がないか、他の候補を探索していく。また、この手法をさらに拡張して、極性分子における内部電場を高精度で評価していく。極性分子は、内部電場が極めて強いため、電子EDMの増幅度が、アルカリ原子よりさらに大きくなることが期待されている。しかしながら、その内部電場の評価の不定性が大きいため、その測定精度の誤差が現状では極めて大きい。そこで、この内部電場の評価を格段に高め、どの組み合わせの分子がEDM測定の有力候補となるか、理論的な評価を進めつつ、実験の可能性を探っていく。
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Research Products
(5 results)