2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
10F00331
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
高橋 隆 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ANG Ran 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 外国人特別研究員
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Keywords | 光電子分光 / 遷移金属化合物 / 新機能物質 / 高温超伝導 / 鉄系超伝導体 |
Research Abstract |
大気中では不安定で取扱いの困難な遷移金属化合物試料を、保管場所からその品質を維持して実験するために、Arなどの不活性ガス雰囲気から高分解能光電子分光装置の超高真空槽に、試料を大気にさらすこと無く移送できる試料トランスファーシステムの設計と製作を行った。また、昨年度から引き続き、パルスレーザー薄膜堆積装置を用いた酸化物単結晶薄膜の育成を行った。本年度は、東日本大震災に加え、青葉山地区から片平地区への装置移設もあったため、まず、パルスレーザー装置の再立ち上げと、装置調整を行い、装置の標準的な試料として作成しているマンガン酸化物(La,Sr)MnO_3薄膜の作成を行い、装置が以前と同じ性能を達していることを確認した。 装置開発や復旧作業と並行して、鉄系高温超伝導体の母物質の基底状態を解明する目的で、KFeAgTe_2について高分解能角度分解光電子分光実験を行った。類型物質のK_xFe_<2-y>Se_2ではT_c=30Kの超伝導が報告されているが、Fe欠陥が入り易いという問題がある。基底状態における絶縁性の議論から、そのような不確定要素を除くために、より純良な単結晶を得ることのできるKFeAgTe_2について詳しい実験を行った。電気抵抗測定により絶縁性を確認した試料について高分解能角度分解光電子分光実験を行い、KFeAgTe_2のバンド構造を決定した。光電子放出によるチャージアップ効果なども考慮して、フェルミ準位近傍の電子状態についてより精密に測定した結果、KFeAgTe_2の電子構造は占有側で0.5eVのギャップを持つ絶縁体であると結論した。LDA計算ではFe3dによる磁気秩序構造によらずに金属的な電子構造を予見していることから、KFeAgTe_2はバンド絶縁体ではないことが分かった。以上の結果から、KFeAgTe_2の基底状態は反強磁性絶縁体であり、他の大多数の鉄系超伝導体の母物質で見られる反強磁性金属的な基底状態とは大きく異なるものである事を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鉄系超伝導体の同型物質KFeAgTe_2が電子相関による絶縁体である事を、角度分解光電子分光による電子構造の直接観測により、初めて見出した。これは、大多数の鉄系高温超伝導体よりも、むしろ銅酸化物高温超伝導体の母物質に近い電子状態である。KFeAgTe_2や類似物資の研究が、鉄系と銅酸化物系の2つの高温超伝導体を統一的に理解できる糸口へと発展する可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
放射光施設において高分解能角度分解光電子分光事件実験を行い、励起光依存性からKFeAgTe_2や類似物質の電子構造の3次元性を決定し、絶縁体領域の電子構造の精密な決定を行う。キャリアをドープする事で、金属-絶縁体転移によってどのようにフェルミ面が形成されるかを調べる。さらに、この系で超伝導試料が得られた場合、超伝導ギャップの決定を行い、他の鉄系超伝導体と同じ超伝導機構なのかどうかを調べる。また、酸化物単結晶薄膜の育成も続行し、バルク育成や表面状態に困難がある銅酸化物系の超伝導体試料について高分解能角度分解光電子分光実験を行う。
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