Research Abstract |
本研究は,窒化物半導体AlGaN系の量子井戸構造により,波長350nm以下の紫外光源を得ようとするものである.この波長域の光は,LSIプロセス,キュアリング,表面改質,殺菌・消毒など,われわれの生活を支える幅広い分野で既に必要不可欠な光である.従来,水銀ランプやフッ素・塩素系のエキシマランプなどが用いられてきたが,低い発光効率,高い環境負荷の構成元素,短い寿命などが問題とされている.したがって,深紫外領域で,高効率,長寿命,低環境負荷の光源を半導体で実現することができれば,エネルギー問題や環境問題の解決に向けて大きく貢献しうるものと考えている.このAlGaN量子井戸構造に関して,本年度は以下の成果を得た. (1)高品質なAlN基板の入手が困難であることから,サファイア(0001)基板上へのヘテロエピタキシーを行った.AlNに関しては,AlとGa原料を交互に供給する手法が望ましいことが従来の研究でわかっているが,AlGaN量子井戸に関しては,むしろ両者を同時に供給するほうが望ましいことが分かった.原因として,同時供給ではGa原子の蒸発が抑制されるため高温成長が可能となり,点欠陥など非輻射再結合中心の導入が抑制されるためであると考えた.得られた内部量子効率は,室温において発光波長247nmで69%であり,現時点では世界最高値である. (2)AlGaN量子井戸における偏光発光特性を実験的に検討した。その結果,Al組成80%程度以下であればc軸垂直偏光することが分かった.またこの傾向は,井戸幅が薄いほうが顕著であった.この偏光方向は(0001)面からの面発光を得るうえで望ましい偏光方向である.これらの結果を理論的に裏付けるため,バンド構造をk・p摂動法により計算した.量子閉じ込め効果と分極誘起電界を考慮することにより実験結果を再現できた. (3)電子線励起による発光特性を評価した.その結果,まず,発光波長210から250nmで発光を得ることに成功し,いずれも従来の発光ダイオードよりも高い効率を持つことを実証した.また,発光のパワー効率が強い波長依存性を持っており,短波長化するに従い効率が低下することが分かった.この傾向は内部量子効率の波長依存性とよく一致しており,電子線励起の場合の発光パワー効率は,AlGaN量子井戸の内部量子効率により支配されていることが分かった.発光ダイオードのような電流注入素子の場合は,短波長化するに従いp型伝導制御が難しくなるため,電流注入効率が全体の効率を支配するのに対して,電子線励起の場合はその問題を回避でき,純粋に量子井戸の特性が現れたと考えられる. (4)電子線励起レーザの実現に向けて誘電体多層膜の作製条件を検討した.反射測定によりおおよそ90%程度の反射率が220~250nmで得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
結晶成長や光学物性評価に関しては,高効率の発光を(0001)面から得る結晶成長条件を見出すことに成功し,かつ,その理論的な解釈も進んでいる.また,電子線励起に関しては,本年度は,210から250nmの波長域で電子線励起発光を得ることに成功している.その発光パワー効率の波長依存性の検討から,効率を律速している主因が内部量子効率であることを見出しており,結晶成長の重要性を確認するに至っている.電子線励起誘導放出に関しては,利得評価など基本的な光学特性の評価が今後の課題として残されているが,光共振器を構成するミラーに関しては,反射率90%程度を達成することに成功した.以上より,全体としては,ほぼ予定通りの進捗状況であると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
AlGaN/AlN量子井戸構造からの高効率な紫外発光に向けて,結晶成長技術の開発による高品質化と,光学特性評価,さらには,電子線励起発光特性の研究に今後も取り組む予定である.例えば,不純物添加による導電性の付加,組成の面内不均一の成長条件依存性,その不均一の発光特性への影響などを検討する.電子線励起に関しては,量子井戸の構造と発光効率の関係を調べる必要があると考えており,それにより,より高効率発光する量子井戸構造の設計が可能となると期待している.さらに,誘導放出に向けて基礎的な光物性である利得などを測定する予定である.
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