Research Abstract |
節足動物ではメス親が子の保護を行うことが一般的なのに対し,なぜ,一部の分類群においてはオス親が子の保護を行うのだろうか.近年,オスの保護能力がメスによって選ばれる結果として,オスによる子の保護が進化し得るという性淘汰を強調した仮説が提唱された(Tallamy 2000, 2001).本研究の主な目的は,オス親が単独で子の保護を行う代表的な分類群であるコオイムシ科昆虫を材料に,オスによる子の保護に性淘汰が与える影響を明らかにすることである.Tallamyの仮説によれば,オスの卵保護能力が性淘汰によって進化してきたとすれば,以下の4つの予測が生じる.それは,1)メスが卵保護中のオスを好むこと,2)繁殖の機会が増加するようにオスは繁殖期に複数の卵塊を保護すること,3)オスは他のオスが受精させた卵であってもそれを保護することで魅力的なオスであることをアピールすること,そして4)繁殖期にメスの個体群密度が高いことである.本年度は日本国内のコオイムシ科昆虫のAppasus属(コオイムシ及びオオコオイムシ)について室内行動観察および野外調査,親子判定を課題とした. コオイムシを用いて卵保護オスと保護していないオスにするメスの選好性を調査したところ,メスは卵保護中のオスを,卵保護中ではないオスよりも好むことが明らかとなった.また繁殖期の野外調査から,Appasus属のオスは繁殖期に複数の卵塊を保護することと,近縁種で卵保護を行わないタイコウチ科昆虫に比べ,Appasus属ではメスの個体群密度が高いことが示された.父系解析については,採集したサンプルからDNA抽出とMicrosatellite DNAマーカーの開発まで行ったので,次年庶に解析する予定であろ.
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