2011 Fiscal Year Annual Research Report
空間反転対称性の破れに起因する新奇超伝導現象―d電子系物質からのアプローチ―
Project/Area Number |
10J00725
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
江口 学 京都大学, 大学院・理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | Li2(Pd1-xPtx)3B / CaMSi3(M=Ir, Pt) / 静水圧下電気抵抗測定 / スピン一重項-三重項混合状態 / スピン軌道相互作用 / ラッシュバ型 / 単結晶育成 / 物質探索 |
Research Abstract |
【1】多結晶Li2(Pd1-xPtx)3BおよびCaMSi3(M=Ir, Pt)の静水圧下における物性評価 本年度は4月から3ヶ月間、オーストリアウィーン工科大学のE.Bauer教授の下で研究を行った。滞在中は報告者が日本で作製した超伝導体CaMSi3(M=Ir, Pt)の静水圧下での電気抵抗測定を行い、超伝導特性の圧力依存性を明らかにした。Li2(Pd1-xPtx)3Bについても同様の実験を試みたが、試料の加工の困難さもあり十分なデータを揃えることが出来なかった。CaMSi3(M=Ir, Pt)については成果を論文にまとめ投稿し、査読中である。 【2】スピン三重項超伝導体Li2(Pd1-xPtx)3Bの単結晶育成方法の確立 これについては東日本大震災に伴う予算執行の影響もあり必要な材料の調達が遅れた。それとは別に、岡山大学と共同研究で多結晶Li2Pt3(Al1-xBx)の電気抵抗測定を行い、存在が指摘されているスピン一重項-三重項混合状態の不純物効果について議論を行った。またLi2(Pd1-xPtx)3Bの比熱測定を続け、今まで見落とされていた比熱の温度依存に対する高次の項の変化を発見した。これはスピン一重項-三重項混合の割合の変遷にフォノンスペクトルの変化が関わっていることを示唆する成果である。 【3】A-T-X3系を中心とした新物質探索、および既知物質の単結晶育成方法の確立と物性評価 これらついては7月から取り掛かり、CaIrSi3単結晶の大型化に成功し、育成法の確立に成功した。またIrと置換しうる元素を見出した。これによって上記の反対称スピン軌道相互作用が制御できる可能性を示唆しており、スピン軌道相互作用が電子状態に及ぼす影響の解明に繋がる成果である。また上記の単結晶を用い、SPring-8にて光電子分光実験を、自ら参加して行い同時に第一原理計算も自ら行って電子状態の解明に努め、物質開発と基礎物性評価だけでなく、広範に渡る評価技術の修得を図った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ATX3型結晶のCaIrSi3の単結晶育成に成功し、さらにその基礎物性をこれまでで明らかに出来たこと、および当初の予定には無かった引力相互作用の起源の解明に繋がる成果を海外での滞在研究により達成したこと、さらに光電子分光実験と第一原理計算技術の修得は当初の計画以上の進展と考えている。しかし一方で、Li2(Pd1-xPtx)3Bの単結晶育成、および装置の修理対応によ数ヶ月に渡って研究が滞った部分で遅れを取っている。これらの状況を踏まえ、(2)とする。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず博士論文執筆に向け、これまでに得られた成果の論文出版を目指す。試料の合成と測定は引き続き、これまでと同様に行って空間反転対称性の破れた物質の純良結晶の育成を目指す。 単結晶育成法を確立し、基礎物性が解明されたCaIrSi3については、より詳細な電子状態の研究を行い、空間反転対称性の破れと超伝導の関係を、理論との詳細な比較検証を行い明らかにする。
|
Research Products
(4 results)