2011 Fiscal Year Annual Research Report
光格子中の混合量子縮退気体における多様な凝縮相の研究
Project/Area Number |
10J00827
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
田家 慎太郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 光格子 / 量子シミュレーション / 冷却原子 / 縮退フェルミ気体 / モット絶縁体 / ボース・アインシュタイン凝縮 |
Research Abstract |
今年度は、前年度に引き続き、光格子中のフェルミ原子173Ybが示す物性についての研究を重点的に行い、多くの成果を得ることができた。173Ybはその原子間相互作用のスピン依存性がなく、通常のSU(2)スピン対称性より大きなSU(6)対称性を持つユニークな系であり、その低温における新規な凝縮相に関心が持たれている。 一方で、Ybに限らず光格子中の冷却フェルミ原子を用いた実験は、興味深い量子相が発現する温度にまで系を冷却することが難しいという問題に直面している。本研究では、SU(6)、SU(2)の対称性を持つ系の熱力学的な性質の違いを実験的に検証した。その結果、スピンに由来するエントロピーの違いにより、SU(6)の系について光格子への断熱的な導入が劇的な冷却効果をもたらすことを明らかにした。この断熱冷却効果によって、より低温で現れる量子相へのアプローチが容易になり、この系に固有の興味深い物性を明らかにすることが可能になると考えている。 また、新たな試みとして2波長のレーザーを用いた光超格子の開発も行った。超格子を用いることで、従来の光格子にない自由度を追加することができ、銅酸化物高温超伝導体などの実在の物質に類似する系をよりクリーンな環境で再現することが可能になる。既に、174Ybボース凝縮体を光超格子に導入し、特徴的な多重物質波干渉を観測することに成功している。 最後に、Ybが持つ超狭線幅の光学遷移を用いた精密分光を行うための発光検出装置を開発した。高分解能のレーザー分光により、光格子中の金属-モット絶縁体転移などの多体現象に関する詳細な情報が得られることが期待される。すでにボース同位体について分光実験に成功しているが、フェルミ同位体に関しては超微細準位の存在によって発光量が少なく、十分な感度が得られていなかった。今回開発した発光レートの大きい遷移を用いた磁気光学トラップにより、フェルミ同位体に関しても同様の実験が可能になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回達成した、173YbによるSU(6)モット絶縁体の実現とそのSU(2)系との比較は他に類を見ない独創的な研究であり、国内外問わず高い評価を受けている。特に、Ybの特徴を生かしてSU(2)系との定量的な比較ができたことは当初の予想より大きな成果であったと言える。また、新たに開発した光超格子、発光検出装置については新たな実験を行う得るために必要不可欠であり、次年度の研究のための大きな足掛かりになると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度後半に開発した光超格子と高分解能分光の装置を用いた実験を行う。いずれも、固体物理学の観点から興味のあるフェルミ原子に関しての実験例は少なく、この研究によって新たな知見が得られるものと考えている。また、SU(6)系が持つ断熱冷却効果を利用し、当初予定していた極低温領域への到達を目指す。この効果はボース・フェルミ混合系などにも有用であり、安定同位体の豊富なYbの特徴を生かして、これらの混合系についても多様な量子相が観測される温度領域へ系を冷却することを目標とする。
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Research Products
(6 results)