2011 Fiscal Year Annual Research Report
海洋動物における同時的雌雄同体と性転換をつなぐ数理モデル
Project/Area Number |
10J00931
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山口 幸 九州大学, 大学院・理学研究院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 蔓脚類 / 矮雄 / 生活史戦略 / 性配分 / 同時的雌雄同体 / 性転換 |
Research Abstract |
海洋動物の性表現は多様で、同時的雌雄同体や雌雄異体、性転換するものなどがある。有柄フジツボ類では、雌雄同体性・雌雄異体性が見られ、雄が出現する際には、その大きさは極めて小さいことが知られている。なぜ小さな雄(矮雄)が進化できたのか、なぜ様々な性表現をフジツボ類がもっているのか、を説明するために、性配分理論と生活史スケジュールモデルを組み合わせて、モデルを作成した。矮雄が個体群に侵入できる条件として、大型個体の繁殖集団サイズがかなり小さいことが挙げられた。つまり、矮雄が直面する、卵の受精を巡る競争がかなり低くなることが、矮雄の侵入を可能にする。 沖縄美ら海水族館の協力のもとで、ハコエビ上の有柄フジツボ類ヒメエボシの性表現を調べるために、ヒメエボシの標本を奈良女子大学の遊佐陽一氏と協力して解剖・解析した。矮雄ではないかと見られる個体が20個体程度あったが、解剖してみると、数個体に抱卵が確認された。また、生殖腺の発達を見ても、同種個体につくヒメエボシとハコエビ上に直接つくヒメエボシとの間で差は見られなかった。よってヒメエボシは雄性先熟的雌雄同体であることが示唆された。 魚類については、性転換の報告がたくさんあり、性転換の方向を決めるモデルがある。一夫多妻の繁殖システムでは、ドミナントの雄がいなくなれば、最大の雌が雄へ性転換をすることが知られている。しかし、ツマジロモンガラという魚では、最大雌ではなく、小さい雌が雄に性転換する。その理由を探るために、雌のえさ獲得のなわばりの質を考慮したモデルを作成した。モデルの結果によると、最大雌は質のよいなわばりを持つため、卵をたくさん生産することができ、性転換しなくても十分な繁殖成功を得られた。しかし、質の悪いなわばりを持つ雌は卵の生産量が少ないため、雄に性転換することで、たくさんの卵を受精することができ、繁殖成功の増加が見込まれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海洋動物の多様な性表現を一元的に記述するための基礎となるモデルは既に作った。また実証研究によるモデルの検証も、エボシガイ類の一種でおこなっている。今年度は、国際学会の招待講演でフジツボの性表現の数理モデルについて発表し、Integrative and Comparative Biologyにレビューを発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに同時的雌雄同体性の性配分のモデル及び性転換のモデルは、それぞれ独立に作った。今年度はこれらを統合することを目指す。また同時に文献調査を行い、同時的雌雄同体性や性転換などのさまざまな性表現をもつ生物の生息環境や成長速度を調べる。作成したモデルの結果を、文献調査から得られたデータと比較する。
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