2011 Fiscal Year Annual Research Report
シバヤギをモデルとした雄効果フェロモンの同定と視床下部における作用機構の解明
Project/Area Number |
10J01018
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
村田 健 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | プライマーフェロモン / GnRHパルスジェネレーター / 雄効果 / カルシウムイメージング / single cell RT-PCR / カッパオピオイド受容体 |
Research Abstract |
本研究は、哺乳類で初めてのプライマーフェロモンとして、ヤギにおいて視床下部GnRHパルスジェネレーターの活動を促進することで非繁殖期の排卵を誘起する雄効果フェロモンを同定し、視床下部における作用機序の解明、応用に向けた基盤形成に敷街することを目的としている。昨年度までにフェロモン活性を有する(ただし雄ヤギ被毛よりは活性が弱い)単一成分(A)が同定されていたが、この成分はアルデヒド基をもつためにやや酸化されやすいため、応用につなげるためには酸化されにくい類縁体の開発が望ましかった。そこで、アルデヒド基をギ酸エステル化することで酸化を防ぐ方法を試した。この変換は昆虫類では活性を変化させない例が数多く報告されている。この変換をした成分を合成し、バイオアッセイを行ったところ、予想に反して、全く活性が検出されなかった。しかし、ヤギのフェロモン受容体が、昆虫類に比べてより特異的にフェロモン分子を認識するという知見を得ることができた。単品Aよりも強い活性が示唆される18成分のカクテル(本年度開始時点では21成分であったが、雄ヤギ特異的でなく、かつ手に入りにくい3成分を外した)から、(A)をはずしたところ、活性は大きく下がったものの、完全には無くならなかった。ここから、もう一成分(B)をはずすと、活性はほぼ無くなった。(B)単独では有意な活性は示さないが、フェロモンの構成成分として重要なはたらきがあることが示唆された。 本年度は受容体同定のために、フェロモン感知器官と想定される鋤鼻器のカルシウムイメージング系とsingle cell RT-PCRの系を立ち上げることを主要な目的としていた。まずラットを用いて、鋤鼻器の取り出し、酵素処理によって単一細胞にしてカルシウムイメージングをする系と、目的の細胞をマイクロピペットで回収して、single cell RT-PCRを用いて目的の遺伝子を釣り上げる系を確立した。今後はヤギに応用していく予定である。視床下部における作用機構に関しては、フェロモンシグナルがカッパオピオイド受容体(KOR)を介したシグナルを弱めるという仮説を提唱していたが、KORの選択的アゴニストを投与し、GnRHパルスジェネレーターの活動を抑制した状態でフェロモンを呈示したところ、フェロモンはその抑制を全くゆるめることは出来なかった。従って、フェロモン作用機構に関しては、他の機構を考える必要がある。 以上から、哺乳類で初めてのプライマーフェロモンのリガンドの同定がほぼ完了し、その受容体を同定する系も整い、哺乳類プライマーフェロモン研究の新たな道を切り拓く研究になりつつあると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鋤鼻神経のカルシウムイメージングとsingle cell RT-PCRを組み合わせた系は国内外で成功例が報告されていない難しい系であり、この系を確立したことは非常に大きな進展といえる。一方で、フェロモンの視床下部における作用機構に関しては、フェロモンシグナルがKORシグナルを弱めるという当初の仮説を見直す必要に迫られた。総合的にはおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の最重要課題は雄効果フェロモン受容体の同定とする。このために、ラットで確立したカルシウムイメージングとsingle cell RT-PCRの系を、ヤギに応用する。また、フェロモン受容による発火により、受容神経で発現が上昇するEgr1などの最初期遺伝子と、これまでにヤギで同定された鋤鼻受容体24種のそれぞれを、in situ hybridizationにより重ね合わせる方法も組み合わせて行う。これにより、vivoとvitroの両方の系で確認すると共に、一方がうまくいかなかった場合にも対処できるようにする。
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