2011 Fiscal Year Annual Research Report
多核金属クラスターおよび金属アルコキシドを用いた酵素機能を有する新規触媒系の開発
Project/Area Number |
10J01533
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 結希子 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 金属クラスター / 亜鉛 / コバルト / 金属アルコキシド / 触媒 / エステル交換反応 / アミド化反応 / 人工酵素 |
Research Abstract |
アミド結合は天然物や医薬品、ポリマーなどの工業製品といった多くの有機化合物に普遍的に存在するため、合成科学的に重要な官能基であり、その効率的な合成法および官能基変換法の開発が望まれている。現在主流のアミド合成法では化学両論量以上の縮合剤や塩基を用い多くの廃棄物を副生してしまうため環境調和型プロセスの実現のためには直接的な変換反応の開発が必要である。研究代表者は多核金属クラスター(1)と金属アルコキシド(2)の二通りのアプローチによる触媒的エステル-アミド交換反応および、これを礎とした新規アミド変換反応の開発を目的としている。 (1)当グループではトリフルオロ酢酸架橋亜鉛四核クラスターがエステル交換反応において高い触媒活性を示し、水酸基選択性という特異な性質を持つことを報告している。研究代表者はエステル-アミド交換反応の触媒設計を行うために、この選択性について調査を行っており、昨年度までにエステル交換反応では亜鉛原子が協同効果を発現するがエステル-アミド交換反応では通常のルイス酸触媒として働くため低活性となること、コバルトを用いても同様に水酸基選択性が見られること等を報告している。今年度は、コバルトを用いて分析手段を広げ、詳細な反応機構研究を行った結果、本触媒反応の真の活性種としてアルコキシ架橋コバルト二核錯体を単離することに成功した。これは本反応機構研究の核心となる重要な発見である。 (2)当グループではナトリウムメトキシド触媒によるエステル-アミド交換反応を開発しており、研究代表者は昨年度までに触媒系の最適化、基質適用範囲の拡大、α-アミノ酸エステルを用いた際のエピメリ化反応の抑制といった成果をあげている。今年度は、さらに条件検討を進めることで、α-アミノ酸エステル同士のペプチドカップリング反応に人工触媒を用いては初めて成功した。本反応は工業的な利用価値も高く、学術的にも評価されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者はアミド結合の効率的な合成法および変換法の開発の礎となる研究を二つのアプローチから進めており、そのうちの一つであるアルコキシドを用いた触媒系はこの二年間で実用化が可能なレベルまで進展している。また、クラスター触媒系についても、研究の目的である活性種の単離や選択性の発現についての調査などを達成しており、新規触媒開発に向けての準備が順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
残り一年は、これまで行なってきたクラスター触媒系の反応機構研究をまとめて活性種および触媒サイクルを決定すること、さらにはそれに基づいた新規触媒設計を行うことを目標とする。現在単離まで行なっている活性種を用いて速度論解析や理論計算を行うことでより深い知見を得られれば、と考えている。また、本クラスター触媒が二酸化炭素の活性化にも有効であることが昨年度の検討で分かったので、二酸化炭素固定化反応についても検討したい。
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